本研究では複数の文化間を移動する青少年の進路形成上の課題およびそれを克服するための諸条件を明らかにすることを目的とし、とくに以下の二点を課題として調査研究を進めてきた。すなわち、(1)複数の文化間を移動する青少年の移行過程を支える教育機関やそこで働く人びとの実態を把握すること、および(2)複数の文化間を移動する青少年の移行の経験について当事者の視点から理解し、実効的な支援のあり方について検討すること、である。いずれの課題についても、現代日本社会とかかわって複数の文化間を移動しながら進路形成をおこなう典型的な存在としてブラジル人青少年を対象に据えた。そして、ブラジル人青少年とかれらの移行過程をさまざまなかたちで支える諸機関や人びとの関係に注目しながら調査研究をおこなった。 (1)の課題については、平成23年11月以降継続している東海地域のブラジル人学校でのフィールドワークに基づき、できるかぎり多角的な実態把握に努めてきた。とりわけ平成25年度は、ブラジル人学校教師の生活史分析をもとに、ブラジル人学校が生徒の進路形成のみならず、そこで働く教師のキャリア形成をも支える場になっていることを明らかにした。また、学齢期を過ぎた在日ブラジル人に貴重な学び直しの機会を提供する通信教育の実態とその意義についても検討した。 (2)の課題については、日本とブラジルの間を行き来する青少年の移行過程をめぐる語り(とりわけ「自立」に関する語り)に注目しながら、当事者の視点に立った移行支援の可能性を探った。 複数の文化間を移動する青少年の進路形成上の課題は多岐にわたり、現実の複雑さに応じて必要な支援のありようも簡単に見通せないのが現状である。ブラジル人青少年を対象とした本研究では、かれらの移行過程を支える教育機関としてのブラジル人学校や通信教育の機能について今後につながる重要な知見を得ることができた。
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