研究課題/領域番号 |
23531133
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研究機関 | 作新学院大学 |
研究代表者 |
山尾 貴則 作新学院大学, 人間文化学部, 准教授 (80343028)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 若者自立支援 / まちづくり / 承認論 / 国際研究者交流 / 国際情報交流 / 韓国 / 地域づくり / 仕事おこし |
研究概要 |
1.排除型社会の特質に関する理論的研究:社会的排除の問題については,J.ヤング,A.ギデンズを中心にして理論的な検討を行なっている.その成果として,書籍(共著)『ポストモラトリアム時代の若者たち』を刊行する予定である.2.若者自立支援活動の実践:若者自立支援活動の利用者たちには,社会的なスキルがあったとしても新たな一歩を踏み出すことに不安を感じる者が少なくない.研究代表者はA.ホネットの承認論に基づき,その不安が彼らの自尊心や自己肯定感が損なわれていることに起因すること,他者との親密な関係がそれらを回復するために必要であることを明らかにした.そうした親密な関係を作る場として「若者ミーティング」という活動を実践した(継続中).3.若者自立支援活動当事者との交流,情報交換:上述の活動を通して,利用者たちはもう一度社会に向けて一歩を踏み出そうとするようになった.しかし現実の社会は(彼らだけでなくすべての)若者にとって生きにくい社会となっている.何よりも,彼らが職を得て自活するということが難しいという事実が厳然と存在する.その壁をいかに乗り越えていくのかについて情報交換をすべく,「第7回 社会的ひきこもり支援者全国実践交流会 in 神戸」に参加した.交流会では「就労と仕事起こし」部会に参加し,一般企業への就労にとどまらない多様な就労の仕方について多大な示唆を得た.4.韓国ソウルにおける若者自立支援活動の見学,情報交換:上記交流会では韓国ソウルで若者自立支援を実践するAkii氏から,音楽を通して社会へと再び参入していく活動が具体的事例と共に語られた.この活動は今後日本においても参考になると判断し,韓国ソウルへ赴き活動の実際を見学するとともに,Akii氏とディスカッションを行い大きな示唆を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.排除型社会の理論的把握:実績概要でも述べたように,排除型社会の特質に関する理論的検討については一定の成果を得て,それらを書籍として刊行する予定である.なおこの書籍では,J.ヤングやA.ギデンズ,A.ホネットらの理論の検討にくわえ,若者ミーティングのメンバー等からの聞き取りに基づき,排除型社会に生きる若者の苦悩をより具体的に描き出すことを課題としている.2.若者を排除しないまちづくりに関する先行研究のサーベイ:本研究の最大の課題は,様々な挫折を克服し自尊心を回復した若者たちを排除しない地域社会のあり方を検討していく理論的・実践的枠組を構築することである.このうち理論的課題については,まちづくり論や地域おこし論等の先行研究のサーベイを行い,理論的示唆が得られるかどうかを検討したが,それらの議論では「まちづくりに興味のある前向きな若者」や「リタイアしても元気な高齢者」等が暗黙の前提となっており,そのままでは本研究には必ずしもなじまないことが明らかになった.3.若者を排除しないまちづくり活動の実践例の発見:実績概要4.で述べた韓国ソウルの事例では,若者の自立支援を行う多くの社会的企業の集合体であるハジャセンターを見学し,活動概要やセンターに集う若者たちの特質等についてレクチャーを受けた.その後Akii氏とディスカッションを行ったが,同席した研究者(ウンジン氏)が韓国ソウルの龍山地区で,不登校やひきこもりなどの若者たちをも巻き込んだ地域づくり活動を実践し,すでに多くの成果を上げていることを知ることができた.この活動は本研究の課題と完全に重なるものであり,今後龍山での活動の実際を調査すると同時にウンジン氏との研究交流を行い,さらには韓国における若者自立支援活動およびまちづくり論などのサーベイも行うことで,理論的枠組の構築に向け多くの示唆が得られると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
1.理論的・実践的枠組の構築:韓国ソウル龍山地区のまちづくり事例を調査し,まちづくり活動がどのような経緯を経て始まったのか,実際の活動の中で若者たちがどのような役割を果たしているのか等を明らかにする.2.日本国内での事例の掘り起こし:龍山地区の活動と同じような活動が日本国内で行われているかどうかをサーベイする.3.若者自立支援活動当事者への聞き取り,情報交換,意見交流:自立支援活動に携わる支援当事者に対して聞き取りを行い,現時点での自立支援活動の課題をあらためて浮き彫りにする.それと同時に龍山地区の事例などを紹介し,今後の日本における若者自立支援活動とまちづくりや地域づくり活動との融合の可能性について,意見交換を行う.可能であれば,研究代表者が現在実践している「若者ミーティング」活動と接続できるようなまちづくり活動を実践する.
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次年度の研究費の使用計画 |
1.調査活動への使用:韓国における社会的企業の活動状況,龍山地区の活動の調査等,韓国を中心に調査を行う.その際の旅費等として使用する.2.データ整理作業への使用:調査で得られた各種のデータを整理する.聞き取りデータのテキスト化(テープ起こし)作業が膨大になることが予想されるので,信頼のおける方に適宜作業を依頼する.その作業謝金として使用する.3.研究者,活動当事者との情報交換,意見交流:本研究を通して様々な場での若者自立支援当事者の活動を知ることができたが,それらの当事者たちを相互に結びつけ,情報交換,意見交流ができるような研究会を開催する.その際の招聘費用等として使用する.
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