研究課題/領域番号 |
23531133
|
研究機関 | 作新学院大学 |
研究代表者 |
山尾 貴則 作新学院大学, 人間文化学部, 准教授 (80343028)
|
キーワード | ひきこもり / ニート / 若者自立支援 / 居場所 / 承認 / 就労 |
研究概要 |
1.排除型社会の特質に関する理論的研究:社会的排除の問題について,2012年11月30日に,世界思想社より書籍(共著)『ポストモラトリアム時代の若者たち』を刊行した.ひきこもりやニートの若者たちがいかなる問題に直面しているかを,若者が「問題」として把握されてきた歴史的経緯,現代の若者たちを取り巻く社会状況の特質,様々な挫折を経験した若者たちを支援する仕組みとしての若者ミーティング,そこでの若者たちの変化,我々の社会が今後向かうべき方向などのテーマで検討した. 2.若者自立支援活動の実践:前年度より「若者ミーティング」という活動を継続して実践している.ミーティングは毎月1回2時間程度の時間で行われ,さまざまな背景(モラルキャリア)を有した若者たちが集い,居場所として機能している.従事するスタッフは3~5人で,参加者は平均して20名程度である. 3.若者自立支援活動当事者との交流,情報交換:「第8回社会的ひきこもり支援者全国実践交流会 in 宮崎」に参加し,全国の若者支援活動実践当事者たちの取組を学んだ.とりわけ豊中市における「豊中パーソナルサポート事業所」の活動実践の報告から,まちの全域に若者支援の拠点を作り,まち全体として若者支援に取り組む複合的かつ全面的な活動の重要性を学ぶことができた. 4.韓国ソウルにおけるBinzipの見学:日本と同じかさらに厳しい状況におかれている韓国の若者たちへの若者自立支援活動については,前年度にソウルのハジャセンターでユジャサロンを主宰するAkii氏にインタビューを行い多大な示唆を受けたが,その際に韓国ソウルの龍山地区で非正規労働者や若者たちへの住宅支援活動を行うBinzipを研究しているパク・ウンジン氏の研究を知り,実際にウンジン氏およびBinzipの実質的な運営者であるジウム氏に聞き取りを行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.排除型社会の理論的把握:実績概要でも述べたように,すでに書籍を刊行した.今後はこの書籍でまとめた理論的視角をベースに,新たな理論的知見を加えて議論を深めていく. 2.若者自立支援活動の実践:この活動は2008年度から継続し,一定の成果をあげている.しかし後述するように課題も浮上してきている.ただしこの課題は活動の失敗を意味するものではなく,活動の「先」にある課題である. 3.若者自立支援活動当事者との交流,情報交換:この点については継続して「社会的ひきこもり支援者全国実践集会」に参加し,交流と情報交換を行なった. 4.若者を排除しないまちづくり活動の実践例の発見:韓国ソウル,龍山地区のBinzipの活動の詳細を知るべく,ウンジン氏と実際の主宰者であるジウム氏に聞き取りを行ったが,結果としては,ジウム氏たちの活動は支援活動なのではなく,あくまでジウム氏も含めた若者たちや住む家を持てない人たちが生きていくために自ら取り組み作り上げている営みであることが明らかになった.また聞き取りの中で,ウンジン氏およびジウム氏から,「そもそも支援するということはおかしいのではないか,私達は政府や市から何らの援助も受けずに,自分たちでこの活動を作り上げている.だからこそ自由がある.傷ついた若者たちを政府や市の援助によって支援するというのは,自由を失うことにならないのか.」という趣旨の質問を受けた.この質問により,あらためて支援するとはいかなることかについて,問い直しが必要であることが浮き彫りになった.
|
今後の研究の推進方策 |
1.若者ミーティングの「先」に関する研究:若者ミーティングは2008年度から継続して実践しているが,開始当初から参加しているメンバーが存在する.彼ら彼女らはむしろ一般の若者たちよりもきめ細やかに他者への配慮をすることができる人であり,社会の中でも望ましい人物とみなされてしかるべきである.しかし実際には,例えば正規職への就労ができず,非正規就労の状態にあることが多い.この点について彼ら彼女らへのインタビュー等を行い,何が問題なのかを明らかにする. 2.若者支援に関する理論的スタンスの模索・追究:若者支援活動に関する事例の収集については「社会的ひきこもり支援者全国実践集会」に参加することで行なってきたが,今回参加して,若者支援の理論的スタンスがいまだ十分には確立されていない点が問題であることが浮き彫りになった.次年度はそうした理論的スタンスをいかに確立すればいいのかについて,若者自立支援活動に携わっているスタッフや複数の研究者とのディスカッションを開催し,知見を深める. 3.日本および韓国の若者の現状認識と意味世界への接近:上記1.と関係するが,若者ミーティングには新しいメンバーが断続的に参加している.その中でもここ1年ほどの間に定着しミーティングの中心的なメンバーとなった若者たちが存在する.彼ら彼女らはコミュニケーションスキルも高いように見え,ミーティングの場でもくったくなく楽しんでいる.それにも関わらず若者ミーティングに集う.彼ら彼女らは何を求めているのか.この点について彼ら彼女らへのインタビューを行い,本研究で既に示したミーティングが持つ「自己信頼を回復する場」としての意味付けとの異同に関して検討する. 4.韓国の大学生の現状認識の聞き取り:さらに韓国の若者(主として大学生)の現状認識や就労への意識について聞き取りを行い,若者ミーティングに集うメンバーの意識との異同を検討する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
1.若者ミーティングのメンバーへの聞き取り:若者ミーティングの「古参」のメンバーに聞き取りを行い,メンバー自身の状況や考え方の変化を明らかにする.これらのデータのテキスト化作業についてはデータの性質上,若者支援事業として若者に仕事を紹介している事業所を利用し,その作業代金及び謝金として使用する. 2.若者支援に関する理論的スタンスの共同研究:若者自立支援活動に携わっているスタッフや複数の研究者との研究会を企画・実施する.その際,本研究の前に若者自立支援の問題を共同で研究していた研究者(村澤和多里氏,村澤真保呂氏)や,若者ミーティングの運営母体の責任者である中野謙作氏などを中心的なメンバーとし,心理カウンセリングを担当するスタッフなども加え,若者自立支援に関する見解を発表し共有する.その際の招聘費用や旅費,会議費等として使用する. 3.若者の現状認識と意味世界への接近:若者ミーティングには新しいメンバーが断続的に参加している.その中でもここ1,2年ほどの間に定着しミーティングの中心的なメンバーとなった若者たちが存在する.彼ら彼女らはコミュニケーションスキルも高いように見えるが,それにも関わらず若者ミーティングに集う.彼ら彼女らは何を求めているのか.この点について彼ら彼女らへのインタビューを行い,1.で入手した「古参」のデータとも比較検討して,ミーティングが持つ「自己信頼を回復する場」としての意味付けとの異同に関して検討する.1.と同様,作業代金および謝金として使用する. 4.韓国の大学生の現状認識の聞き取り:日本の状況を理解する参照軸として,今年度も韓国における若者自立支援について調査を行う.それと同時に,3.であげたような若者の意味世界への接近という課題を,韓国の若者(主として大学生)の現状認識や就労への意識についての聞き取りとしても実施する.その際の旅費等として使用する.
|