当初の研究計画に基づき,以下の研究を遂行した. 1.排除型社会の特質に関する理論的検討および排除型社会における自己アイデンティティのあり方に関する検討. 2.種々の事情で社会的自立を果たすことができないでいる若者たちを対象とした居場所活動「若者ミーティング」の実施. 以上の研究を通して,若者が社会に過剰なまでに適応しようとした結果として引きこもり等の「問題」が生じてしまうことが明らかになった.その際,「自分は大丈夫だ」といういわば根拠のない自信すなわち「自己信頼」が傷つけられ欠損してしまいがちであることも確認された.またそうした「問題」を解決するにあたり,社会適応を再度迫るようなスキルアップトレーニングなどは自己信頼をますます傷つけることになりかねないこと,まずは自己信頼を回復することが重要なこと,そのためには同じような経験をした若者たちが集い,ゆるやかにつながりあっていけるような居場所を設置し,そこで経験を共有することを通して互いを承認しあうという活動が有効であることが明らかになった.以上の研究に基づき『ポストモラトリアム時代の若者たち 社会的排除を超えて』を刊行した. 3.韓国の若者自立支援活動の研究および若者のメンタリティに関する研究. 韓国の若者自立支援活動組織である「ハジャセンター」の中で活動する,音楽を通した若者自立支援活動「ユジャサロン」の活動を調査した.その結果,彼らの活動は学歴重視の韓国社会にオルタナティブな価値を提示する活動にもなっていることが明らかになった.同時に,ハジャセンター以外にはこうした活動がほとんど存在しない状況であることも明らかになった.平行して韓国の若者への聞き取りを行い,学歴社会に適応することに何らかの違和感を覚え,将来に関する不安への「保険として」資格取得を重視するなど,日本の若者に近しいメンタリティを持つ若者も存在していることを確認した.
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