研究課題/領域番号 |
23531136
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
江原 裕美 帝京大学, 外国語学部, 教授 (40232970)
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キーワード | 国際開発 / 教育開発 / ラテンアメリカ / アメリカ / 技術援助 |
研究概要 |
平成24年度は、1960年代におけるアメリカ合衆国の対ラテンアメリカ政策である「進歩のための同盟」をめぐる意図と政策形成を再構成するために資料収集を実施し、一次的な資料分析を行うことを主な研究目的とした。第二次大戦後のアメリカを中心とした国際開発体制の構築プロセスについて、ラテンアメリカとの関係、特に教育の面から分析を行った例はほとんどない。しかし、アメリカが戦前から初めて連邦による文化政策の一環として教育交流に乗り出した際の主な対象地はラテンアメリカであった。戦後はその体験を基礎にして「技術援助」をうちだしたのであって、こうしたことから見てもラテンアメリカへの技術援助、中でも教育分野は、開発援助の一つの中心として重要である。 アメリカは1950年代の軍事援助中心の体制から、1960年代には経済援助の増加へとシフトしていく。当時のケネディ政権の重要な政策の一つが社会開発であって、教育はそのための技術援助の重要分野となった。アメリカは教育文化担当の国務次官補ポストを新設してこれに取り組もうとした。同時にラテンアメリカは共産主義化が心配される地域と捉えられ、「進歩のための同盟」に見られる通り、重点的対象地域となったのである。 このようなプロセスの中で、教育について国務次官補がどのように取り組もうとしたかを中心に、当時の教育開発政策の意図、政策形成の様子、ラテンアメリカ諸国の取り組み、国際機関などとの関係などについて順次分析を行っている。1950年代のユネスコ中心のラテンアメリカ教育開発の動きは、1960年代が近づくにつれ、開発思想の影響によって計画化が進められた。それまで目立たなかったその動きが顕在化して大規模に進んでいく過程を順次追いかけている。二度にわたり、ワシントンDCで資料調査を行ってある程度の情報は集まったので、今後その分析にいっそう力を注ぐ所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、1960年代初期ケネディ政権における対ラテンアメリカ援助政策と教育協力(進歩のための同盟の内容)と開発観をテーマとした。アイゼンハワー政権末期の開発思想転換を受け、ラテンアメリカに対してどのような開発援助政策をケネディ政権が目指したかを、体制、外交政策及びその実行を担う人々の動きから探っていく。1990年代までのアメリカの開発援助の実行体制は、ケネディ政権期に基盤が作られるため、その枠組みと思想をおさえることはラテンアメリカ政策を分析する上でも避けて通れないためである。この観点から、「ケネディ政権における新対外援助体制とラテンアメリカ援助政策の背景」(『帝京法学』第28巻第2号、平成25年3月)、「ケネディ政権の対ラテンアメリカ教育政策ー国際会議を中心に」(『帝京大学総合教育センター論集』第4巻、平成25年3月)において目的を追究した。またアメリカが「進歩のための同盟」を通じてラテンアメリカで実現しようとした開発のあり方を分析することが重要となる。この点に関しては、「進歩のための同盟の形成と構造 1961-1965」(『帝京大学外国語外国文学論集』第19号、平成25年3月)をまとめた。またこれまで日本語では目に触れる機会が少なかった進歩のための同盟に関する重要文書も翻訳した。これらにより大枠についてはとらえたものの、近代化論者の動向と教育開発政策に関する分析はまだ途中である。以上のような経過から、研究計画で掲げた目的について、順調に進展している部分もあるが、やや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究計画としては、前年度から引き続き行っている教育分野の分析を進めることと同時に、主たるテーマをジョンソン政権における対ラテンアメリカ援助政策と教育協力の変化とし、ジョンソン政権がベトナム戦争という進路を進む中で、ラテンアメリカに対してどのような開発援助政策を実行したかを探究する。この時期ラテンアメリカにはクーデターが頻発し、開発独裁体制が敷かれていく時代でもあった。教育者の経歴を持つジョンソン大統領が目指した「偉大な社会」は、国際的な教育協力をどう捉えて実行したのだろうか。「進歩のための同盟」はどのような変化を辿ることになるのだろうか。第二次大戦後から1960年代終わりまでを国際開発体制確立の段階ととらえ、アメリカの開発援助の動きと、ラテンアメリカに対する政策を整理考察してみたい。また、最終報告書をまとめ、教育分野を中心に1950年代から1960年代の開発観の形成と変遷を整理し、この分野の発展において対ラテンアメリカ関係が有した意義を考察したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経過を機会を捉えて発表すると同時に、最終報告書をまとめることが本年の主要目的である。そのため、研究費の大部分は報告書作成に用いる予定である。ただし、資料の収集も継続して行っているため、研究経過によっては調査を再び行う可能性があり、それにも対応できるようにしたい。
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