研究課題/領域番号 |
23531144
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研究機関 | 名古屋女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
石倉 瑞恵 名古屋女子大学短期大学部, その他部局等, 講師 (30512983)
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キーワード | 国際情報交流 / チェコ / 高等教育 / 私立大学 / 欧州高等教育圏 / 質的指標 |
研究概要 |
チェコにおける多様な私立大学の教育・研究の質を可視化、類型化するために、23年度は首都圏の経済系私立大学に関する調査を進めたが、24年度は、首都圏外の経済系私立大学を中心として研究を進めた。また、公立大学との対比において私立大学を類型化し、私立大学の社会的機能を明らかにするために、チェコ大学の生成に関する歴史的分析を行い、その経緯から現チェコにおける大学の理念について明らかにしようと試みた。 7月までは、それまでに収集した資料に基づき、チェコ大学の研究・教育の理念について分析した。市民革命後に制定された1990年高等教育法が大学の自治と学問の自由を謳いあげていること、またチェコ社会や産業界が大学に対して保守的な見解を抱いていることを背景とし、大学は、教育・青年・スポーツ省との関係性においても自治を保つことができる。公立大学の自治と自由は、学術的入試や研究の自由を守るという伝統的な大学のあり方に表れ、私立大学の自治と自由は、市場経済にアンテナを張り巡らせ、多様なカリキュラムやプログラムを模索する需要適応型運営に表れている。 8月には、チェコ調査を実施し、ズノイモやクノビツェの経済大学について、カリキュラムやプログラムを調査した。9月以降は、23年度に検討した「国際志向性」及び「国際的受容度」指標の上にそれらの大学を位置づけ、首都圏経済系私立大学との比較検討を行った。首都圏外の経済系大学では、国境に近い大学であればあるほど、近隣の市が後援団体となる場合が多く、地方の特色を反映させたカリキュラムを提供する傾向にある。短期留学パートナーが隣接する国であったり、隣接国大学との共同プログラムを設けていたりすることもある。すなわち、国際的受容度、及び国際志向性は高くなく、地域の知的基盤(ハイパー地域生涯学習センター)となる場合が多いことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私立大学の機能を解明するには、私立大学が公立大学と比較してどのような研究・教育の理念をもっているのかを明らかにする必要があるとの指摘を受け、8月チェコ調査までは、公立大学の研究・教育理念を分析することに専念した。その成果の一つは、日本比較教育学会第48回大会における口頭発表「チェコ大学が目指す教育と研究の理念 民主化と民営化をめぐって」である。また、大学の自治と学問の自由を守ろうとする方向性は、単に社会主義への反動として生まれたのではなく、それ以前の虐げられたチェコ民族の歴史を背景として生じたことを明らかにし、「カレル大学の発展における社会主義期の位置づけ -チェコ人のための大学という視点からの歴史の読み直し―」(『名古屋女子大学紀要』第59号)と題する論文として発表した。また、自治と自由は、公立大学と私立大学の方向性を分岐する理念であることを導き、公立大学との対比で私立大学を類型化する思考的基盤を確立することができた。 8月には、チェコ調査を実施し、高等教育センターを訪問して首都圏外経済系私立大学についての資料収集を行い、研究への助言を受けた。8月以降は、首都圏外の経済系私立大学を「国際志向性」、「国際的受容度」指標の上に類型化した。この段階までは、研究計画に沿った進行であり、高い自己評価を付すことができる。 しかし、私立大学の大半を占める経済系私立大学を公立大学と「実際に」対比させること、また、23年度に高等教育センター長シェブコバ氏により指摘された点である「学生の満足度」を含めた質的指標の構築には至らなかった。しかし、公立大学、私立大学の研究と教育の理念を明らかにしたことにより、表面的二次元分類から三次元分類へと可能性を伸ばしたことへの意義は大きい。したがって、現在までの達成度には「おおむね」という自己評価を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、以下に示す手順で研究を進め、多様な私立大学の教育・研究の質を可視化、その多様性を類型化し、チェコ私立大学の社会的機能についてまとめあげる。 第一に、調査対象私立大学を経済系以外の私立大学へと拡大する。社会・人文系専攻を提供している大学の中から、ヤン・アモス・コメンスキー大学(教育学)、プラハ心理学カレッジ(心理学)、看護カレッジ(看護学)等のカリキュラムやプログラムを詳細に調査する。チェコ調査は、高等教育研究センターの協力を得て8月に実施する予定である。また、最終的なまとめを念頭に置いて、特に近年の教育・青年・スポーツ省や大学関係者の議論に関する資料を収集する。国立図書館等においては、ジャーナリスティックな資料にあたり、私立大学の社会的評価に関する資料を収集する。 第二に、私立大学の社会的評価や世論を合わせて、「国際志向性」、「国際的受容度」の指標に再検討を加える。すなわち、高等教育を提供する「大学」、その高等教育の受益者である「国際社会」と「チェコ社会及び学生」の3点を柱とした類型化指標を構築する。非経済系私立大学に関する情報を整理した後、その指標上に首都圏経済系私立大学、首都圏外経済系私立大学、及び非経済系私立大学を位置づけ、チェコ私立大学の類型について検討する。 第三に、第二において構築した指標を公立大学と対比できうるより透明性の高い指標とする。今までの研究により、公立大学の理念、及び、カレル大学等旧来の総合大学と社会主義専門大学を起源とする革命後の新総合大学との研究・教育理念上の相違については明らかになっている。第二で構築した指標の上に公立大学を位置づけて公立大学と私立大学とを対比させることを通し、指標の透明性を高めると同時に、チェコ大学における私立大学の機能を解明することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
7月に開催される日本比較教育学会(上智大学:東京)に参加し、ヨーロッパ高等教育をフィールドとしている研究者、及び欧州高等教育圏に関する研究を行っている研究者と情報交換を行う。学会参加のための旅費として、60千円をあてる。内訳は、交通費36千円、宿泊費24千円となる見込みである。 8月にチェコ調査を実施する。国立図書館等での資料収集、高等教育研究センターと大学の訪問、文献・出版物等の発送作業を念頭におき、3週間以上の滞在を予定している。そのための旅費として600千円をあてる。チェコ調査旅費の内訳は、ルフトハンザ航空渡航運航費300千円、宿泊費300千円程度(25日程度、一泊12千円)となる見込みである。チェコ調査時に購入するチェコ高等教育関連の文献には、1冊3.5千円程度のものを30冊程度購入するとして、100千円をあてる。購入、複写した文献・出版物をチェコから送る際の書籍小包料は、一箱5kg5千円として計算し、50千円となる。 日本においてチェコ関連の文献を購入する場合、古書となる場合が多い。絶版となり希少価値が高く高額になるものもある。8千円程度のものを10冊程度購入するとし、80千円になる見込みである。 以上の旅費、文献・出版物費用のほかに、画像、音声保存用記録媒体、情報整理、論文執筆に必要なパソコン用記憶媒体、プリンター用トナー等消耗品購入のための費用として80千円をあてる。また、研究成果をまとめたものを印刷、製本するための費用として50千円をあてる。 23年度、24年度は学内行事の合間を縫ってのチェコ調査であったため、滞在日程が少なかった。25年度は、チェコ調査のための日程を長くとることが可能であると思われる。前年度余剰分をチェコ調査旅費に多く充当する。
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