研究課題/領域番号 |
23531145
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研究機関 | 安田女子短期大学 |
研究代表者 |
廿日出 里美 安田女子短期大学, その他部局等, 教授 (40248323)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 実践知 / 保育者養成 / 演劇 / コンテンポラリー・ダンス / アート教育 / 国際情報交流 / ニュージーランド / イギリス |
研究概要 |
当該研究は,平成20~22年度科学研究費補助金基盤研究(C)「実践知の創造を支援する活動システム理論の構築」(研究代表者:廿日出里美)で見出した理論と方法論を実際に用いて,「教職実践演習」「教員免許更新講習」ならびに民間団体が実施する研修を想定したアクションリサーチを展開することを目的に計画されたものである。必ずしも「保育・教育」の専門家とは限らない保育者・教員養成校の教員は「保育・教育職に就く準備としての事前学習」や「実践を持ち帰っての省察」を得意としているものの,「実践のなかでの創造」に寄与することは手薄になりがちであった。当該年度に実施した研究の成果は,異なる価値観の文化的背景のなかで専門的な仕事を推し進める運用力を理解し,育成するための「ワークショップ」プログラムを「保育」と「演劇」「コンテンポラリー・ダンス」との対話から導き出した「実践」そのものにある。それらは,高度な専門性を身に付けると同時に,専門多職種チームで働く専門家の養成に向けたひとつのモデルを提示することに意義や重要性を見出し,研修を企画する主催者と参加者のニーズをワークショップで提供される知の体系と関連づけて緻密に整理した後,具体的なプログラムを錬り,実施と評価に及んでいる点に特徴がある。芝居やダンス等「芸術」における学習は,「保育」の仕事で求められる対象や動機と重ね合わさり,身体をとおして背後にある理論が参加者に共有され,実感されるのを促進している。エンゲストロームが「学習活動の動機は,現実への理論的関与である」と述べるように,そこでは専門的な立場や技術を超えた知の循環が起こっている可能性が高い。当該研究では,そうした焦点事例をあえて高度に専門化された学会でなく,より現場の実践知に引きつけた検討が見込める共同カンファレンスのデータセッションで発表し,プログラム内容の精緻化と深化をはかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる平成23年度は,「文化」と「実践」にかかわる国内外の最新動向を中心に文献研究を行うとともに,フィールド調査では,「実践」に深くかかわる,いくつかの先駆的なワークショップ型研修の現場に赴き,参与観察を行い,関係者から情報提供を受け,本研究におけるプロジェクトを遂行する際の参考にした。当該研究の目的に沿って,アクションリサーチとして平成23年度に実施したワークショップは次のとおりである。・ワークショップVI「リラックスとコミュニケーション(講師:きだつよし氏)」(於安田女子短期大学)2011年11月2日・ワークショップVII「リラックスとコミュニケーション(講師:きだつよし氏)」(於安田女子短期大学)2011年11月3日・ワークショップI「おしゃべりなからだ(講師:ほうほう堂 新鋪美佳氏 福留麻里氏)」(於安田女子短期大学)2012年3月13日 上記のワークショップは,当該研究の「研究計画調書」ならびに「交付申請書」に記載したとおり,先行研究の平成20~22年度科学研究費補助金基盤研究(C)「実践知の創造を支援する活動システム理論の構築」(研究代表者:廿日出里美)において過去7回にわたって実施したワークショップを踏襲しながら,その他の芸術分野との提携の可能性を探るために企画したものである。しかしながら,実施のために所属機関に提出した起案書が(1)被験者が少人数(9名)であること,(2)専門的知識の提供者の居住地が広島近県でないこと,(3)専門的知識の提供者に支払われる謝金額を理由に,新規の学長のもとでは承認されず,当該研究のある一時期において研究計画そのものを断念しなければならない事態が生じた。そうした危惧の最中,日本学術振興会研究事業部研究助成第一課の迅速な対応で,予定していたワークショップの開催が計画どおり可能になった。尽力くださった関係各位には心からお礼を申し上げたい。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度にあたる平成24年度は,前年までの文献研究とフィールドワークを継続して行うとともに,継続中のアクションリサーチを共同カンファレンスの開催によって,より本格化したものにする。その方策として,共同カンファレンスでは,理論構築と次のアクションリサーチに繋がる焦点事例を中心にデータセッションを行い,ワークショップを企画する主催者と参加者のニーズをそれぞれのワークで提供される知の体系とさらに関連づけながら緻密に整理し,次のプログラムに反映させる。今後はこのようなワークショップとデータセッションをアクションリサーチのプロジェクトとして繰り返し,体系的なプログラム内容の修正をはかっていく予定である。 研究を遂行する上での最大の課題は,上記のような研究計画を実地に移すための起案書が所属機関で受容されにくいという,不安要素を常に抱えたまま研究を推進しなければならない点である。当該研究で取り扱うワークショップは,被験者の個体数を絞って,集中的・追跡的なデータを収集・分析し,新たなプログラムを共同開発することに主眼をおいたアクションリサーチとして実施する。したがって,経営効率の観点から被験者一人当たりにかかる経費節減を優先し,一般公募による不特定多数の被験者相手に研究成果を一方的に公開する性格のものとは大きく異なる。しかしながら,前者のような研究課題に対して「たった9人の参加者のために東京から専門的知識の提供者を招いて行うような研究を本学で認めるわけにはいかない」とか,間接経費は受託するが「本学の与り知らないところで本学とは無関係に(研究を)行ってください」と明言する組織体制のなかにあっては,当該研究の方向性を日本国憲法第23条「学問の自由は,これを保障する」に照らして自覚しつつ,当該研究におけるプログラムの遂行を通して異議の申し立てを行っていくしかないと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降の研究費の使用計画は,当該研究の「研究計画調書」ならびに「交付申請書」に記載したとおりである。文献研究では研究費を国内外の「文化」と「実践」の関係図書ならびに「ワークショップ」と「アウトリーチ」の関係図書の購入に充てる。フィールドワークでは研究費を研究代表者の調査研究旅費や参加費に使用する。ワークショップおよびデータセッションでは研究費を専門的知識の提供者の旅費と謝金に使用する。研究成果の発表では研究費を研究代表者の旅費に使用する。その他,フィールドワークやデータセッションにかかる消耗品や会議費,通信費,運搬費ならびに中間報告書の印刷費等に研究費を使用する予定である。
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