研究課題/領域番号 |
23531145
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研究機関 | 安田女子短期大学 |
研究代表者 |
廿日出 里美 安田女子短期大学, その他部局等, 教授 (40248323)
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キーワード | 実践知 / 保育者養成 / 演劇 / コンテンポラリー・ダンス / アート教育 / 国際情報交流 / ニュージーランド / ドイツ |
研究概要 |
当該研究は,平成20~22年度科学研究費補助金基盤研究(C)「実践知の創造を支援する活動システム理論の構築」(研究代表者:廿日出里美)で見出した理論と方法論および平成23年度科学研究費助成事業(基盤研究(C))「実践知の創造を支援するワークショップのアクションリサーチ」(研究代表者:廿日出里美)で収集した継続的な観察データを用いて,前年度までの「教職実践演習」「教員免許更新講習」に加え,「高大連携公開講座」ならびに民間団体が実施する研修を想定したアクションリサーチを展開することを目的に計画されたものである。アクションリサーチとして実際に計画・開催されたワークショップは,研修を企画する主催者と参加者のニーズをワークショップで提供される知の体系と関連づけて緻密に整理した後,具体的なプログラムを錬り,実施と評価に及んでいる点に特徴がある。当該年度に実施した研究の成果は,異なる価値観の文化的背景のなかで専門的な仕事を推し進める運用力を理解し,育成するための「ワークショップ」プログラムを「保育」と「演劇」「コンテンポラリー・ダンス」との対話から導き出した実践そのものに色濃く反映されている。当該研究では,そうした焦点事例をあえて高度に専門化された学会でなく,より現場の実践知に引きつけた検討が見込める共同カンファレンスのデータセッションで意見交換を行い,プログラム内容の精緻化と深化をはかってきたが,当該年度はその中間的な報告を日本教育学会第71回大会で発表し,一般の教育関係者に馴染みやすい情報出力の模索と研究成果の開示に踏み切っている。また,当該年度から「発声」に着目した「ボイストレーニング」「オイリュトミー」を含むパーフォーミングアーツとの提携までプログラムの拡張をはかるため,新規のフィールドワークを開始し,次年度のアクションリサーチのプログラムでその具現化に向けて手筈を整えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三年計画の二年目にあたる平成24年度は,「文化と実践」にかかわる国内外の最新動向を中心に文献研究を行うとともに,フィールド調査では,「実践」に深くかかわる,いくつかの先駆的なワークショップ型研修の現場に赴き,参与観察を行い,関係者から継続的に情報提供を受け,本研究におけるプログラムを遂行する際の参考にした。当該研究の目的に沿って,アクションリサーチとして平成23年度に実施したワークショップは次のとおりである。 ・ワークショップ「おしゃべりなからだII(講師:ほうほう堂 新鋪美佳氏 福留麻里氏)」(於安田女子短期大学)2012年9月19日 ・ワークショップ「リラックスとコミュニケーションVIII(講師:きだつよし氏)」(於安田女子短期大学)2012年11月16日 また,二年目までの研究成果を日本教育学会第71回大会(於名古屋大学)において発表した(廿日出里美2012「実践知の創造を支援するワークショップのアクションリサーチ-『芸術における学習』を保育者養成に導入する試み-」『日本教育学会第71回大会発表要旨集録』pp.196-197)。中間的な報告として行った学会発表では,NPOや公共ホールが学校とアーティストとの橋渡しをするアウトリーチではなく,学校の教員が拠点となって,長期的な視野から教員や学習者が必要とする実践知の創造をアーティストが生涯をかけて追究している知の体系と結びつけながら企画・開催するワークショップを提案するとともに,保育者養成校で実施したアクションリサーチデータにもとづき,授業にアーティストが加わることで相互に「何が学ばれたのか」を例証し,エンゲストローム(1987)の定義する「芸術における学習」を専門職の養成に取り入れる意義と留意点を明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成25年度は,前年度までの文献研究とむフィールドワークを継続して行いながら,アクションリサーチのデータを3ヶ年の時系列に沿って整理するとともに,各分野の実践に携わる専門家および社会文化的アプローチを専門とする国内外の研究者との共同カンファレンスを繰り返し,保育者・教員養成や現職教育の研修で応用可能なプログラムへと洗練させていく。その方策として,前年度までと同様に,共同カンファレンスでは,理論構築と次のアクションリサーチに繋がる焦点事例を中心に,データセッションを行い,ワークショップを企画する主催者と参加者のニーズをそれぞれのワークで提供される知の体系と関連づけながら緻密に整理し,体系的なプログラム内容の修正をはかっていく予定である。 研究を遂行する上での最大の課題は,上記の研究計画を実地に移すための起案書が所属機関において決裁されなかったケースが過去に発生し,不安な要素を常に抱えたまま研究を推進しなければならない点である。本研究で取り扱うワークショップは,被験者の個体数を絞って,集中的・追跡的なデータを収集・分析し,新たなプログラムを開発することに主眼をおいたアクションリサーチとして実施するものであり,経営効率の観点から被験者一人当たりにかかる経費節減を優先し,一般公募による不特定多数の被験者相手に研究成果を一般公開する性格のものとは大きく異なる。尤も当該年度は同様の研究計画による起案書が被験者の人数や応募方法,専門的知識の提供者の居住地や時間当たりの謝金額を理由に差し戻されることが無くなり,提出から2週間以内で決裁がおりるよう改善された。また,所属機関が実施する「平成24年度科学研究費助成事業研究費執行内容のモニタリング」では任意のワークショップについて,担当職員が内容を聴取済みである。最終年度にあたる次年度においても円滑な運用がなされるよう要望する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は,当該研究の「研究計画調書」ならびに「交付申請書」に記載したとおりである。文献研究では研究費を「文化」と「実践」に深くかかわる国内外の最新動向を集めた文献ならびに個別の「アーティスト」「ワークショップ」「アウトリーチ」の関係資料の購入に充てる。フィールドワークおよび共同カンファレンスでは研究費を研究代表者の調査研究旅費,ワークショップの参加費,共同カンファレンスの開催に必要な経費に使用する。ワークショップおよびデータセッションでは研究費を専門的知識の提供者の旅費と謝金に使用する。研究成果の発表では研究費を研究代表者の旅費に使用する。その他,フィールドワークやデータセッションにかかわるデータの記録メディアに係る消耗品や会議費,通信費,運搬費,最終報告書の印刷費等に研究費を使用する予定である。
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