裁判員制度が2009年5月から始まり、刑事裁判(重罪)に市民が参加し、概ね順調な展開を見せている。しかし、マスコミによる刑事事件報道(事件報道)は、以前よりも改善されたとは言え、依然として被疑者や逮捕者のプライベートな情報提供をして、受け手に彼らが犯罪者のように捉えられかねない報道をしている。さらに、犯罪被害者についても、特に、被害者が死亡した場には、顔写真も公開され、その家族のプライバシーまでもが侵害されることも起こっている。我々国民は、このような報道に麻痺して無批判に受容してしまう傾向にある。これでは公正な裁判が行われる大前提が損なわれ、人権が侵害され易い社会状況になっている。 本研究は、こうした現状に鑑み、裁判員裁判の対象となる刑事事件とその報道、すなわち、「事件報道」に焦点を当て、学習者が体験的な学習を通して、マスコミによる事件報道を多角的な視点から批判的に考察し、より公正な事件報道の在り方を探究することのできるゲーミング・シミュレーション教材(GS教材)を開発した。特に、前回の科研費研究でGS教材「裁判員裁判」の開発に続く研究であることから、本研究では、刑事事件の他に、刑事事件とも関わる「いじめ事件」を題材として、刑事事件と民事事件との関連も学ぶことのできる教材開発と実践を行った。 こうした学習を通して、学習者がメディアリテラシーや法的リテラシーを培い、適切に事件報道を捉え、自身の社会生活に活用できる社会的実践力を育成する研究を行った。
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