研究課題/領域番号 |
23531168
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小池 研二 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (90528382)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 美術科教育 / 国際バカロレア / 美術館での教育活動 / 国際情報交流 |
研究概要 |
国際バカロレア(以下IB)中等課程プログラム(以下MYP)の美術科カリキュラムを我が国の美術教育に応用する可能性について研究目的通り以下の3点を中心に研究を行うことができた。(1)学習進歩ワークブックを活用した,美術科授業の効果について我が国の授業形態や評価方法等を考えながら,その効果的な活用の仕方を横浜国立大学附属鎌倉中学校で22年度に引き続き実践研究した。授業参観による実態調査,22年度に引き続き本年度7月及び12月の2回のアンケート等から,以下のことが回答数,生徒の自由記述より確認することができた。i)ワークブックの活用が発想構想面を重視した我が国の美術教育に有効な面があること,ii)ワークブックを使用することにより,美術の学習を一貫したものと捉え,授業に対する関心を溜める効果があること。iii)我が国へ導入する場合は我が国の実情に合わせる必要があること。(2)MYPの立場から考えられる美術館を活用した鑑賞教育について,ジュネーヴ近代美術館,パウルクレーセンター,ベルン美術館,ジュネーヴ歴史美術美術館の活動を中心に調査し,美術館と学校との関係や,美術館と社会に対する関係,美術館における美術科のみならず他教科との関係について調査した。一般市民向け市民大学や幼児を対象とした鑑賞教室やワークショップに参加し,美術館と社会,学校との関係について調査した。(3)美術科を中心とした多文化理解・コミュニケーションの可能性についてジュネーヴ及び横浜インターナショナルスクールを訪問するなどして美術科における多文化理解の可能性について生徒作品や授業の様子などから知ることができた。ジュネーヴインターナショナルスクールは国際バカロレア発祥の場所でありその意味でも今回の調査により多くのことを直接聞くことができIBの今後の研究をつなげるための多くの示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)学習進歩ワークブックの使用状況については,本年度はジュネーヴ,横浜インターナショナルスクールでの調査を行った横浜国立大学附属鎌倉中学校では,全校生徒を対象にワークブックを使用した授業について調査した。アンケートも2回実施しワークブックについての生徒の考えも知ることができた。美術の授業全般に有効に活用できることがわかった反面,我が国に導入する場合には使用する時間の確保,調べ学習につながる可能性との関係,創造活動を大切にする美術本来の意味との兼ね合いなどいくつかの問題点も見えた。ワークブックの活用については以上のようにおおむね順調に研究が進んでいると評価できる。(2)美術館での鑑賞教育についてはジュネーヴ近代美術館及びパウルクレーセンター「子ども美術館」での活動について担当者からのインタビューや教育活動への参加といった調査により,美術館と社会とのつながりについて,美術館の果たす役割について知ることができた。具体的にはi)市民の積極的な参加,ii)学校との連携,iii)施設の整備,等である。学校との連携については今後さらに研究を続ける必要性があると評価できる。多くの美術館での教育活動について調査を続ける必要がある。(3)国際都市であるジュネーヴのインターナショナルスクールの調査を通じて多文化理解・コミュニケーションといったMYPの概念を生かした授業について調査することができた。全人的,博愛的なジュネーヴがIBの成立に大きく関与しているのではないかという仮説を得ることができ,このことについては今後さらに調査研究する意義を認めた。(4)MYPのみではなくディプロマプログラム(DP)について調査を開始することができた。MYPからDPといった流れの中で研究をすることができIBについての研究をより深めることができた。特にDPについては生徒インタビューなど多くの点で研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)学習進歩ワークブックの使用状況について,23,24年度の実践内容を分析し,我が国の状況に合うワークブックのあり方について調査を継続する。アンケート等を行い調査する。また,美術と自分たちの生活との関わりについてワークブックがどの程度有効かについて題材との関連を図りながら調査する。調査の対象は横浜国立大学附属鎌倉中学校を中心に行う。一方IBのワークブックの独自性について調査し,我が国の美術教育に取り入れる際の意義について意味を見す。(2)国内及び国外の美術館で社会と関連した活動についてIBの視点から注目すべき点についてまとめ発表する。一般的な美術教育の枠にとらわれない鑑賞やワークショップ等の活動を行うにあたり,IB・MYPの考え方がどの程度有効であるか,MYPの理念に沿って学習をする場合美術科の学習が社会に対しいかなる効果があるのか調査する。調査方法としては館発行の活動記録,ウェブサイト,担当者に対する聞き取り等を行うこととする。(3)MYPの基本概念である多文化理解・コミュニケーション・ホリスティックな学習を大切にした授業のあり方について実践面からの研究を継続する。視覚伝達機能を有する美術における多文化理解・コミュニケーションホリスティックな学習の有効性についてMYPの視点から考察を加える。国内外の学校での実態調査を行い多文化理解やコミュニケーションを目的とした学習内容についてワークブックやワークシート,授業参観,作品等から調べていく。(4)MYPのみでなく,DP,PYPについて,プログラムの特徴を明らかにし我が国の中学校美術科に応用できるものがあるか,内容を具体的に整理しながら参考になるものを探っていく。方法はIBから出版されている公式文献の調査や,国内外の実施校の訪問,IBアジアパシフィック地域を統括しているシンガポールセンターでの聞き取りを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度交付される直接経費は500,000円である。パソコンソフト及び,消耗品費用として10万円,パソコンソフトは海外調査の旅費として25万円,通訳費用等及び報告書制作費としてその他15万円を計画している。パソコンソフトはアンケートを集計するための統計ソフトを考えている。消耗品としてはデータ記録用記録機器,データ記録用カメラ及びカメラ周辺機器等を考えている。海外調査としてはIBシンガポールセンター及びインターナショナルスクール,美術館等の社会教育施設への聞き取り調査費用を考えている。その他としては海外取材時の通訳代,報告書の印刷費である。
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