研究課題/領域番号 |
23531179
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
岡田 匡史 信州大学, 教育学部, 教授 (30194369)
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キーワード | ヨーロッパ / 鑑賞教育 / テキスト / 図像学 / 図像解釈学 / 読解的鑑賞 / 図像学的読解メソッド / キリスト教絵画 |
研究概要 |
第2期は,「テキスト研究」を柱とした。 第34回美術科教育学会(新潟大学)の口頭発表を受け,ジャンティーレ・ダ・ファブリアーノ「マギの礼拝」を今期の読解的鑑賞の主要対象作品とし,読解的メソッドを適用した鑑賞方法を継続研究した。 「読解」に関し,今期検討を加え,PISA資料が提起した読解概念を分析した。そこで明瞭となった内容を踏まえ,石川千佳子と吉川登の鑑賞教育論について,論文諸篇を参照し考察した。さらにE.B.フェルドマン考案による4段階批評鑑賞メソッドを基に昨期まとめた6段階鑑賞法を再検討し,知ることに一層の重点を置く7段階鑑賞法を作成した。 上記作品が拠って立つテキストとして,「マタイの福音書(『新約聖書』)」2章1-12節をメインに,また,画家の画想を育んだサブテキストとして,「ヤコブ原福音書(『新約』外典)」17-20章,ヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説』第14項を分析した。テキストと絵の関係を読書感想画を媒介に考察し,テキストの継時的な場面進行を視覚化・空間化するための計8種の方法が抽出できた。以上の研究を基盤に,対象作品に備わる時間構造(各部の時間的連結)の特徴を明らかにした。研究成果は論文化し,査読を経て,『大学美術教育学会誌』第45号pp.103-110.に収載された。 鑑賞題材の構築可能性の多角的検討を行うことを目的として,上記作品も含む読解的鑑賞の候補作品,関連する文化遺産等を観察・分析し,展示環境や現地の歴史的・文化的実態も詳細把握する必要から,欧州諸都市に赴き,実地見学を実施した(この種の調査を継続予定)。 平成24年度末開催の第35回美術科教育学会(島根大学)の口頭発表では,今期対象作品と主題的に連関する,ドメニコ・ギルランダイオの祭壇画2点を選び,比較鑑賞的視座を設け,読解的鑑賞における「テキスト,図像学,アトリビュート」の可能性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◎ジャンティーレ・ダ・ファブリアーノ「マギの礼拝」の読解に不可欠な,主副両方のテキストの分析が捗ったから。 ◎上記作品を対象に,継時的に展開してゆくテキストがどう絵画化されるかを精緻に分析でき,8方略が整理できたことで,絵の時間構造の特質が明らかとなり,鑑賞題材構築に益する地盤が得られたから。 ◎上記作品初め,読解的メソッドが効果的に適用可能な候補作品群を,ウフィツィ美術館(フィレンツェ)初め欧州諸館で細部迄実見できたことにより,続く研究課題(指導法研究と鑑賞題材開発)をより具体的に推進できるから。
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今後の研究の推進方策 |
第3期は,今期研究を基盤に,特定的作例としてジャンティーレ・ダ・ファブリアーノ「マギの礼拝」他を選び,その読解を目的とした鑑賞題材の構築に努めると共に,指導法を重点的に研究したいので,E.B.フェルドマンの理論をさらに学ぶ中で,また,“Instructional Resources(指導資料集)”も参照しつつ,これ迄提起してきた6段階鑑賞法や7段階鑑賞法を検討し直し,より良き指導法を模索・提起したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
第2期では,主要鑑賞対象としたジャンティーレ・ダ・ファブリアーノ「マギの礼拝」の分析や,<絵とテキストの関係>の考察は十分進められたが,<画面の時間構造>については,未整理な部分を残し,研究後半で生じた課題に取り組む為,文献調達や旅費に必要となる額として113,029円を第3期へ繰り越すこととした。第3期は,文献研究が主体となり,可能な範囲で資料購入を計画的に進める。また,指導法研究(含題材構想)を重点的に推進する為,附属学校の公開研究会等で有益な鑑賞授業実践があれば行って参観したい。また,国内に限るが,読解的鑑賞題材開発に好適な作品を展示する企画展があれば,可能な限り足を運びリサーチしたい。研究論文も2篇まとめたい。その為にも,第3期予定額に加え,上記繰越金が必要となると判断した。
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