本年度は、領域の設定がドイツの他州と異なる特徴を有するノルトライン・ヴェストファーレン州の教育大綱(2004)についてまとめた。研究対象は領域III「音楽は歴史と文化を結ぶ」、領域IV「音楽は使用され,何かを生じさせる」に焦点化し、指導内容とその発展性について調査した。これらの領域は他国に見られるような具体的な音楽活動ではなく,音楽が生成される際の普遍的な要素から成り立っている。また、人間にとって音楽がどのような役割を果たし,人がどのように音楽を必要としてきたかという,文化理解や生涯教育を目的とした内容となっていた。 次に、その内容とドイツの文部大臣会議による「アビトゥア試験の統一基準」との関連、特に「思考・判断能力」の育成との関連について調査および考察を行った。ドイツでは「音楽について思考すること」に関しては全ての州で重要視されており、学年段階ごとの到達目標とともに極めて高度な発展性を有していることが明らかとなった。 さらに、それらの内容を観点として我が国の学習指導要領との比較分析を行った。その結果、我が国の音楽教育においては不十分あるいは欠如している部分が浮き彫りとなり、今後のカリキュラムの内容と構成に関して大きな示唆が得られたと考える。
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