研究課題/領域番号 |
23531182
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
栗原 久 東洋大学, 文学部, 教授 (00345729)
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研究分担者 |
山根 栄次 三重大学, 教育学部, 教授 (50136701)
猪瀬 武則 弘前大学, 教育学部, 教授 (40271788)
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キーワード | 農業学習 / 経済教育 / 社会科 / 持続可能性 / 経済的な見方や考え方 / 米国:英国:ニュージーランド / カリキュラム / 習得・活用・探究 |
研究概要 |
本研究は,経済教育の観点から社会(公民)科における農業学習の内容を再構築することにある。具体的には,機会費用やトレード・オフ,インセンティブ,機会費用など「経済的な見方や考え方」の基礎にある概念を活用した農業経済教育カリキュラムを提案する。その際,日本でこれまで実践されてきた農業学習の成果と課題について再検討し,諸外国における経済教育研究の成果を参考にする。 平成24年度においては,諸外国(米国・英国・ニュージーランド)における農業学習の現状を分析する作業を行った。その結果,次の3点が明らかになった。1)米国では,1998年,オクラホマ州立大学などが「食料・繊維システムリテラシーへの指針」という農業にかかわる包括的な学習内容スタンダードを開発しており,これには,農業の「歴史・地理・文化」「科学・技術・環境」などとならんで「ビジネスと経済」が学習テーマとなっている。2)英国では,持続可能性の観点から農業に関心がもたれている。3)ニュージーランドでは,総合(合科)単元として構成された農業教育カリキュラムがニュージーランド第一教員協会(PPTA)によって開発されている。 また,日本社会科教育学会第62回全国研究大会に参加し,そこで発表された農業学習関連の研究発表の分析を行った。その結果,小学校の農業学習(第5学年)においても,付加価値といった経済概念をキーワードとする学習が展開されるようになったことが明らかになった。これは,平成23年度から全面実施された新学習指導要領が,農業単元(第5学年)の「内容の取扱い」で「価格と費用」の観点を示したことの反映である。 さらに,平成24年度は,中学校社会科公民的分野の新教科書が出そろったことから,農業にかかわる教科書記述の検討を行った。その結果,経済単元で学習した概念を活用して農業問題を考察させるという視点は乏しいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,研究期間内において,次の4点について明らかにするのが目標である。1)これまで社会科の授業で行われてきた農業学習の成果と課題を,経済教育の観点から整理する。2)米国,英国,ニュージーランドで農業にかかわる学習がどのように行われているか,現地調査を行い明らかにする。3)農業にかかわる諸問題を考察するのに必要な「経済的な見方や考え方」を明確にする。4)1)から3)の研究成果をもとに,「農業経済教育カリキュラム」を開発する。 これまで,1)と3)については,順調に研究が進んでいる。1)については,社会科関連の国内学会に参加し,農業学習関連の資料を収集,分析する作業を進めている。また,3)については,2010年,米国経済教育協議会(CEE)が改訂出版した『経済学習内容スタンダード』を入手し,その農業学習への応用可能性を検討した。また,同協議会が新たに公刊した『金融リテラシーのための全国スタンダード』についても,その内容の農業学習への応用可能性を検討している。 2)については,米国,および,英国における現地調査は実施できた。米国調査では,農務省が「持続可能な農業を学ぶことは,何歳でも可能である」との方針の下,各種の学習教材を開発していることが明らかになった。英国調査では,農業,教育関係者を対象としたアンケート調査を実施できた。しかし,ニュージーランドの農業教育に関しては,書籍などを活用しての調査は行ったが,現地調査は実施できなかった。これは,ニュージーランド調査を予定していた研究分担者が,24年度に米国滞在を行わざるをえない状況が生じたためである。このため,「現在までの達成度」は,予定より「やや遅れている」との評価にした。 なお,4)については,最終年度(平成25年度)に集中して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,次の1)~5)を実施の予定である。1)農業学習にかかわる国内資料の収集,整理,分析については,今後も継続して実施する。社会科教育関連の学会が開催する全国研究大会に参加し,農業学習の新しい実践・研究の方向性を探る。2)平成20年度公示の学習指導要領にもとづく高等学校公民科の新教科書(「現代社会」「政治・経済」)の農業関連の記述内容について,分析,検討を行う。3)平成25年7月,オークランド市(ニュージーランド)で「シチズンシップ,社会,経済教育国際学会(IACSEE)」の年次大会が開催されるので,これ参加し,ニュージーランドにおける農業学習関連の資料収集を実施する。4)国内調査,海外調査によって得た知見をもとに「農業経済教育カリキュラム」を開発する。5)年度末には公開研究会を開催し,「農業経済教育カリキュラム」の内容について報告するとともに,広く意見交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費については,24年度の未使用分を含め,「今後の研究の推進方策」に記した内容を確実に実施するために使用する予定である。 平成24年度の当初計画では,ニュージーランドへの海外出張を実施予定であったが,研究分担者の中の一名が24年度中に米国滞在をせざるをえなくなったため,実施できなかった。このため次年度使用額が生じたが,平成25年度はこれを確実に実施する。 国内資料の収集には,社会科教育関連の学会が開催する全国大会へ参加する必要があるが,これへの旅費が必要になる。また,「農業経済教育カリキュラム」の開発のためには,25年度中に研究会合を3回開催の予定である。これには,旅費,および,会議費等が必要である。収集した資料の整理などのため,ファイルなどの消耗品も購入予定である。「農業経済教育カリキュラム」開発のために参考とする農学,経済学関連の書籍の購入も引き続き行う予定である。
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