研究課題/領域番号 |
23531189
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
石川 誠 京都教育大学, 教育学部, 教授 (00293978)
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研究分担者 |
水山 光春 京都教育大学, 教育学部, 教授 (80303923)
土屋 雄一郎 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (70434909)
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キーワード | フェアトレード / 「効率」と「公正」 / 学習モデル開発 |
研究概要 |
本研究の目的は,平成20年度改訂の中学校学習指導要領において加えられた「効率」と「公正」の概念に関して,フェアトレードを視点として社会科公民教育の学習モデルを開発することである。平成23年度は,フェアトレードの「効率」と「公正」の観点からの理論研究,および英国等と日本のフェアトレードに関する市民教育,学校教育の現状を分析する開発研究の二つの視点から研究を進めた。平成24年度においても引き続き上記の二つの視点から研究を進めた。研究の概要は下記の通りである。 理論研究は主として経済的分析を進めた。社会科公民分野では「効率」と「公正」の概念は前者が経済的、後者が政治的な概念という捉え方が一般的であり対立する概念として捉える傾向がある。これらをフェアトレードに当てはめて考えた場合には,「効率」と「公正」を対立的に捉えるのではなく,「公正」を実現するための規準としての「効率」という新しい捉え方に基づいた分析を,タンザニアのコーヒー生産,ブルキナファソのシアバター生産を題材に進めた。フェアトレードではない途上国と先進国間の一次産品貿易は,経済学的には市場が歪められた状態が見られる。例えば,タンザニアのコーヒー取引の例では,コーヒー生産者と買取業者における情報の非対称性から,生産者が価格情報に実質的にアクセスできないといった市場の歪みがあるが,この歪みを補正することにより「効率」を高めることになり,貿易取引の結果における「公正」が担保できる。このような分析をベースに論点を整理した。 開発研究については,英国のヨーク市での活動を中心に分析した。今年度は特に学校でフェアトレード活動を推進したり教えたりするための教師に対する教育プログラムを分析した。日本においては,このような活動はほとんど行われておらず,日本でのプログラムを考える際の知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,理論研究で分析を加えたフェアトレードにおける「効率」と「公正」の観点からの考え方を,実際のフェアトレード産品の生産現場を通して見ることで,より現実に近い精緻なものとするために,ブルキナファソのシアバター生産を調査する予定を立てていたが,フランスのマリ侵攻という突発的な状況の発生により渡航を断念せざるを得なかった。理論研究については,文献等からの分析,ブルキナファソ在住の方からの情報に基づく分析に留まっており,その部分について研究目的の達成度がやや遅れていると考えている。 開発研究については,英国等のフェアトレード先進国のフェアトレードの関する市民教育,学校教育の分析は,ヨーク市の例を取り上げて行ったが上で,フェアトレードを題材とした「効率」と「公正」に関する社会科公民教育の学習モデル開発にについても始める予定であったが,これについてもブルキナファソ調査の中止により理論研究が遅れたため,開始することができなかった。この点からも研究目的の達成度がやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関して,平成23年度および平成24年度の研究成果をベースとして,平成25年度は次のように研究を進める予定である。 理論研究については,本来は平成24年度に完成させる予定であったが,海外調査の中止等の理由で遅れているため,平成25年度も引き続き行う。今年度は,フェアトレード取引において,途上国における生産者がフェアトレードの持つ「効率」と「公正」の概念をどのように捉えているかを明らかにすることを中心に研究を進める。特に「効率」と「公正」を対立的に捉えるのではなく,「公正」を達成するための規準としての「効率」と捉える考え方が,現実のフェアトレードの取引において妥当性を有するかどうかを明らかにする。これについては,フェアトレード生産国での聞き取り調査の実施を考えている。 開発研究については,英国ヨーク市のフェアトレードに関する市民教育,学校教育の研究から得られた知見をベースにして,このような教育において「効率」と「公正」の概念をどのように取り扱うかについて分析を進める。また,こうした教育プログラムを受けた市民自体がフェアトレードにおける「効率」と「公正」についてどのように考えているかということも明らかにしていきたいと考えている。これについては,英国等での消費者に聞き取り調査の実施を考えている。 上記の理論研究,開発研究で得られた研究成果をベースにして,フェアトレードを題材とした「効率」と「公正」に関する社会科公民教育の学習モデル開発を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の当初の研究計画では,平成23年度および平成24年度において海外での調査を予定していたが,平成23年度は相手先との調査時期等の調整の不調,平成24年度は国際情勢の変化という理由で実施することができなかった。そのために,「次年度使用額」に約286万円が残額としてある状況となっている。 これを受けて,平成25年については,研究費の使用計画として次のように考えている。 (1)設備備品費については,フェアトレードに関する文献,資料,フェアトレードに関する市民教育,学校教育についての文献,資料に550千円,(2)消耗品費については,記録メディア,プリンタインク等の事務用品費として250千円,(3)国内旅費については,国内のフェアトレードに関する市民教育,学校教育に関する調査・研究旅費として450千円(1人1回50千円×3回×3人),成果発表のための旅費として150千円(1人1回50千円×1回×3人),(4)海外旅費については,フェアトレード生産国での調査・研究旅費およびフェアトレードに関する市民教育,学校教育に関する調査・研究旅費として2100千円(1人1回350千円×2回×3人),(5)その他費用として,本研究の報告書の印刷,郵送費として300千円を使用する計画である。
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