研究課題/領域番号 |
23531202
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
吉川 幸男 山口大学, 教育学部, 教授 (40220610)
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キーワード | 歴史学習 / 歴史学習指導 / 問いの生成 |
研究概要 |
本年度は、主に英語圏における歴史教科書に見られる「問い」の構成を、その学習の文脈から調査を行い、もう一方で「問い」の後の学習展開に関して、附属学校を活用し、自ら実地授業を行うことを通して、いくつかの方向性を探り出した。 英語圏における歴史教科書は、歴史学習における教科書の位置付けが我が国とは異なり、子どもが何らかの「制作的」な活動を行うことを前提に作成されているため、その学習の向かう先が実に多様であり、学習指導研究の観点からは多くの示唆を得ることができた。 こうした知見を活かして、「問い」に続く展開の指導方略の試みを実地授業で行った。一般に社会科教師の間では、「問題解決」「課題解決」という呼び名があるように、学習過程における「問い」は「解決」の方向に向けて動いてゆくことを前提に指導方略が立てられる。しかし前年度までの研究視点とその成果からすれば、「問い」は「解決」に向けて動くというより、「思考のレベル転換」を経過するように動くほうが、学習における「問い」本来の機能に即しているのではないか、という観点に立って指導方略を試みた。 例えば、「問い」に対して対立的に思考の場を設定して議論をした後、レベル転換をさせてゆく方略として、「選択態」から「必然態」さらに「可能態」へと転換させてゆく方略が考えられ、これは実際に実施を試みたが、「問い」の展開として学習を深化させる有効性を確認できる一方、丁寧に段階を踏んで行うと非常に時間を要するという課題が明らかになった。 こうした成果と課題に、前年度の研究成果である「複数の子ども類型への調整的指導」という観点を加えると、「思考のレベル転換」の各段階ごとに、個々の子ども類型へのよりミクロな指導モデルを構築する必要が生じてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の手法を、1年次においては、より学校現場の現実を踏まえた実際的な方略の開発に向けた方向へと若干変更したが、その後はおおむね順調に推移しており、2年次には大きな変更なく進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の集約に向けて、実態分析から試案・開発への論理的整合性を見直し、不十分な点があれば該当箇所のデータ収集と再分析を行う。また、2年次に実施したような実地授業を再度試み、よりミクロな指導場面における指導効果に関する評価を行う。これらの成果を、報告書冊子として取りまとめ、可能なら出版に向けての検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用予定研究費は、主に謝金の実施がなかったことによって生じたもので、これは実施授業に関するデータ収集の仕方を量的なものから質的なものに重点をおいたため、機械的な単純作業を依頼する目的での謝金が不要になったことによる。今後、この研究費は次年度と合わせ、研究全体に対する論理的整合性を見直す過程で生じる課題に対し、最新の歴史研究や社会科教育実践の観点から検討できるための文献、歴史授業実践や研究のための実地授業のデータを収集するための機器や消耗品、そして全体の成果を取りまとめる報告書冊子の作成を行う経費として使用する予定である。
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