平成24年度,初対面の中学生を対象に協調的な学力の育成を目指した数学学習の実践に取り組んだ.そこで,協調的な学力に通じる数学観・数学学習観について肯定的な変容を促すことができた一方で,学習者同士の社会的相互作用は必ずしも活発ではなかった.そこで,平成25年度は,数学的活動を積極的に導入するとともに,問題解決の解決方法自体の選択に学習者を積極的に貢献させるという学習実践の改善を試みた.その結果,数学的活動においては学習者同士の社会的相互作用を活性化することはできたが,問題解決の解決方法自体の選択の場面では,授業者の力量不足もあって学習者同士の社会的相互作用を十分に引き出すことはできなかった.ただし,協調的な学力に通じる数学観・数学学習観の肯定的な変容は前年度同様促すことはできていた. 3カ年の研究全体を通じては,研究の目的は大きく3つ,①協調的な学力の育成を目指した学習の理論的枠組みの構築,②その理論的枠組みに基づいた学習実践,③その学習実践の検証があった. ①については,協調的な学力を「他者と協調的に関わりあい,概念的な認知活動も含めて生産的に活動できる力」と定義し,とりわけ数学学習における協調的な学力とは「数学の学習を通して,他者の数学的な能力やよさを引き出し,自身の数学的な能力やよさを協調的に発揮する力」と規定し,そうした力を育成するための数学学習として「見つめ考え議論する」学習を提案し論文にまとめた.②は,「見つめ考え議論する」学習を「夏休み数学学習会」(4日間)と称して中学生に実際に実施したことが成果である.③としては,その数学学習会において事前事後のアンケート調査を実施し,参加中学生の数学観・数学学習観が個人的・個別的なものから柔軟で他者を意識したものへ変容していることを明らかにした.
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