平成25年度は、本研究の初年度より研究を続けてきたハンガリーの画期的なピアノ教科書、アパジ・マーリア著『ピアノの夢―創造的なピアノ学習』の理念と指導法を踏まえ、アパジのピアノ指導の柱である即興演奏指導法に焦点を絞って研究を進めた。 具体的には、平成25年8月~9月に研究代表者がハンガリーに赴き、アパジ・マーリアのピアノ即興演奏指導法について詳細な聴き取りと撮影を行った。また、『ピアノの夢』に示された287の即興演奏課題の全訳を行い、それらの課題に基づいて、日本の子どもを対象に即興演奏指導の実践を行った。これらの研究成果に基づいて、日本音楽教育学会第43回大会において口頭発表を行い、仙台白百合女子大学紀要第18号に論文を掲載した。 三年間の研究の結果は以下のようにまとめられる。アパジのピアノ教育の目的は人間教育であり、楽器演奏を通して幅広い視野を持った豊かな人間性を養うことである。その特徴は、多様な分野との連携を基礎とする学際的なプログラムを用いること、たった一音の吟味に始まり、音楽史上のあらゆる様式や音階を用いて系統的・段階的に指導を行うこと、即興、作曲、解釈(演奏)の三つを統一して扱うことが、即興演奏指導を中心としたアパジのピアノ教育である。このような指導法は、再創造演奏指導が中心的な日本のピアノ教育ではまだ一般的ではないため、アパジの指導法に学び、実践することは、コミュニケーション力不足や社会性の欠如などが指摘されている日本の子どもの人間的な発達を促し、「生きる力」を育む音楽教育のために大変有益である。なお、研究協力者の小山英恵は本年度のアパジの研究にも大きく影響し、 研究成果をまとめ『フリッツ・イェーデの音楽教育「生」と音楽の結びつくところ』(京都大学学術出版会:2014)を出版し、音楽教育界に貢献した。
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