研究課題/領域番号 |
23531220
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研究機関 | 岐阜聖徳学園大学 |
研究代表者 |
加藤 晴子 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 准教授 (10454290)
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研究分担者 |
加藤 内藏進 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90191981)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 歌の生成 / 異文化理解 / 自然環境 / 小中学校の指導法開発 / 教科の連携 |
研究概要 |
本研究は,歌の生成に焦点をあてて,音楽表現とその背景にある気候・風土等の自然環境との関わりについての学際的考察を行うことを通して,児童生徒が音楽を文化として総合的,主体的に捉える眼を養うことへ向けた指導方法の開発を目的とする。自然環境に関しては,気候の地域的違いや中緯度の中でも微妙に違う季節サイクルとの関わりに特に注目した。 本年度は,生活の中で歌われてきた季節の歌に関して,民族学博物館,高野辰之記念館,中山晋平記念館,北京の国家図書館などでの現地調査・資料収集を行うとともに,日本付近の気象の季節サイクルの新たな解析も含めた既存の知見の体系化,日本やドイツ語文化圏などの歌の分析,及び,気候と音楽に関して前年度までに実施した分も含めた学際的授業の結果の分析等を行った。 音楽と自然環境の関わりについては,生活の中で歌われてきた民謡の中から季節が歌われている歌を抽出し,歌詞を中心に演奏形態,特徴についても分析を行い,歌に見られる季節感について整理を行った。分析では,アジア地域では中国の民歌やモンゴルの民謡,ヨーロッパ地域ではドイツをはじめ北欧諸国の民謡を取り上げた。 日本付近では,まだ気温が真冬よりもかなり高い季節から冬の天気系が卓越すること,50mm/日以上の多雨日は4~10月頃を通して現れやすいが,その頻度や降水形態が東西でかなり異なることが分かった。 歌の分析と気候や風土に関する分析を総合した結果,各々の地域の特徴的な気候と同時に,その地域の地理環境や生活環境との関わりがより具体的に見えてきて,「地域による表現方法や表現の対象の違い」や「気候が与える心理的な影響」については,これまでの研究結果の追検証ともなった。以上を通して,歌が生成されるという切り口からの文化理解に関する様々な学習の可能性と必要性が示唆され,教科の連携の具体化への手がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度には,異文化理解のための指導方法の開発に欠くことのできない,いわば研究のベースとなる「素材」の精選の点から,資料の収集と分析を進めてきている。同時に学習の可能性について実践的に研究を進めてきている。そこでは,学習プランの作成や具体的な教材化を念頭に置いた知見の体系化を計画に沿って進めており,特に,アジアやヨーロッパ地域での季節の遷移期に見られる独特な気象と歌の生成,表現などの注目し,「自然環境と音楽の関わりとその生成過程」「表現の背景にある繋がり,要因」に焦点を当て,文化の多様な側面を浮かび上がらせるようなことにもある程度成功している。また,それらを視点の中心に据えた授業実践も,前年度の予備的授業実践も踏まえて,おおむね順調に分析や更なる進展への指針が見えてきている。 H23年度は初年度でもあり,まずは資料の収集に力を入れた。調査で得た資料は,文化の多様性,多面性を浮かび上がらせるものであり,特に「ものの繋がり」「歌背景にあるもの」「自然環境がもたらすもの」等の点から異文化理解の可能性を広げることに繋がりうるものとなったと考えられる。 また,研究の成果の一部は,論文や口頭発表も行った(H24年4月のウィーンでの発表も含む)。従って,研究目標の現段階での達成度は,ほぼ「計画通り」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
24年度には,23年度に行ったものに加えて更なる調査・資料収集を行い,分析結果をさらに発展させ,季節感を接点として自然環境と歌の生成に関する知見を継続的に蓄積していく。そのために,23年度に行ったような大きなブロックでみた地域での生成や表現の比較から発展させ,同一地域内にみる自然環境の違いにも焦点をあて,歌の生成について比較を交えて,季節感を文化として整理し,考察を深める。例えば,日本については,地域が少し異なるだけで季節サイクルや降雨・降雪環境に違いのある,沖縄と日本列島,太平洋側と日本海側,中国では北部と南部等にも注目する。考察を深める上で,現地調査を行うと共に,23年度の分析結果に関して,専門家からの知見の提供を受ける。 季節感を文化として整理した中から,小学校・中学校における異文化理解の学習に活用しうる内容を精選し,それらを素材として用いて学習プログラムの構築を行う。学習プログラムの開発にあたっては,専門家からの知見の提供を受けると同時に,小中学校の教育現場からの意見を求め,より実践的な形で学習プログラムの試案を作成する。試案に関しては「学習手引き集(試案)」を作成し,小・中学校の教育現場や大学の教員養成の担当授業で実践を行い,教科の連携を通した異文化理解の学習について実現の方向とその可能性を探る。 これらを中間成果として国内外の学会で口頭発表や論文発表し,多方面から意見を受け,課題を明らかにしていく。 最終年度の25年度では,24年度までの成果や問題点を踏まえて,課題を発展的に継続していく。これを通して本研究の最終結果をまとめ,研究成果報告書,学会口頭発表,論文発表を行うと共に,「学習手引き集(最終版)」を作成する。これは,通常の研究成果報告書と学習プラン集を合体させたものとする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に「次年度使用額」が42万円ほど生じた。これについては23年度の成果の一部の発表と資料や研究情報の収集(例えば,24年4月下旬のウィーンでの国際会議)への出張経費に使用する。また,中国で23年度に収集した資料の整理の補助や,これまでの成果を踏まえた研究の更なる進展に際した専門家からの知見の提供のための謝金にも使用する。このようなことによって研究全体がより効率的に進められると判断した。 このように,次年度は,全体としてみると,当初計画にほぼ沿って,研究資料入手(現地調査等も含む)やその分析・知見の再体系化や教材開発・授業実践・分析のための経費(消耗品,旅費な他),成果発表や研究打ち合わせのための旅費,等を中心に,ヨーロッパの国際学会での成果発表や資料・情報収集も含めて,研究経費を使用する予定である。
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