本研究は,歌の生成に焦点をあてて,音楽表現とその背景にある気候・風土等の自然環境との関わりについて学際的研究を行うことを通して,児童生徒が音楽を文化として総合的,主体的に捉える眼を養うことへ向けた指導法の開発を目的とする。自然環境に関しては,気候の地域的な違いや中緯度の中でも微妙に違う季節サイクルの関わりに注目した。 今年度は,平成23年度,24年度に行った調査や資料収集で得た資料に関する分析をさらに進め,季節感を接点として自然環境と歌の生成の関わりについて考察を深めた。それと共に,ドイツフライブルク民謡研究所において民謡に関する新たな資料を収集し,ドイツの季節に関わる歌について季節の行事との関わりも踏まえながら考察を行ってきた。歌の背景にある季節サイクルについて,暖候期の中での雨の多様性,日本の気候を特徴づける「秋から冬」と「冬から春」の進行の非対称性,等にも注目し,季節感との関連などを考察した。 その結果,歌の生成,歌われている事象について,その背景にある気候や生活との関わりをいくつか明らかにすることができた。研究成果の一部を,学会で発表し,論文にもまとめている。また,それらの成果の中から,小学校,中学校,高等学校の教育現場に資するものを抽出し,自文化・異文化理解の面からのアプローチとして小学校教員の研修会で講演を行うと共に,独自の教育実践プランを立て,中学校,高等学校,大学(教育学部教員養成課程)において授業実践を行ってきた。それらの実践を通して,音楽と気候の関連を通したものの見方の広がりとその可能性について提示することができた。また,これまでの本課題の成果を中心に,本グループによる関連研究の成果も加えながら研究を総括し,著書「気候と音楽-日本やドイツの春と歌-」として出版した。この出版には,岐阜聖徳学園大学学術図書出版助成金を受けた。
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