研究課題/領域番号 |
23531233
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研究機関 | 国立教育政策研究所 |
研究代表者 |
水戸部 修治 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター研究開発部, 教育課程調査官 (80431633)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 ベルリン / 読解力 / 国語科教育 / 授業改善 / 学習指導要領 / 評価規準 / 読書活動 |
研究概要 |
まず、教育委員会指導主事、小学校教諭等からなる「読解力育成のための授業改善モデル」作成のためのワーキンググループを組織し、基礎的な情報を整理することとした。具体的には、国立教育政策研究所が2011年に公表した「評価規準の作成のための参考資料」に示された「評価規準の設定例」を元に、各教科における読解力がどのように評価規準として記述されているかを洗い出した。評価規準では十分な情報が得られない場合は、その元になる「学習指導要領解説」、さらにはより具体的な事例集である「言語活動の充実に関する指導事例集」(文部科学省)の記述に当たるという手法をとった。その結果、読解力にかかる記述は、主に「思考・判断・表現」の観点において、各教科に顕著に見られること、各教科の特性によって、読解する対象は異なるが、各教科を貫くように、共通する要素も見いだされることを明らかにした。例えば、対象に働きかけて理解するだけではなく、自分の考えを明確にすることまで読解の対象としていることなどが、各教科の評価規準の分析によって明らかになった。 続いて、ProlesenとLesecurriculumの特徴及び基礎学校での運用状況の把握と分析を行った。平成24年3月にベルリンの訪問調査を行い、ベルリン・ブランデンブルク州立学校・メディア研究所(LISUM)の研究担当者2名から詳細な状況を聞き取るとともに、ベルリン市内の基礎学校、市立図書館を対象に、聞き取り調査と授業参観を行った。その結果、全教科で読解力向上に取り組むために、PISAスーツケースのツールを各教科の学習で共通に活用するなどの工夫が行われていること、その基盤としてLISUMが最も重視しているのが教員研修であり、教師の力量を高めることが、Prolesenの成否を握っていることなどを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワーキンググループによる評価規準の分析は、全教科をカバーするには至らないものの、複数の教科で同時進行し、各教科の読解力を比較することで、従来は明らかにされなかった共通性を洗い出すことができた。また、教科ごとに整理する枠組みを確定し、順次その枠組みに従って教科を広げていくための基礎を固めることができた。 本研究課題を遂行する上で重要な問題として、各教科等における読解力を洗い出すための手法自体を開発することがあげられていた。第1年次においては、評価規準の設定例、学習指導要領解説、言語活動の充実に関する指導事例集などを活用することで各教科等における読解力の具体像を明らかにするという手法を開発できた。このことは研究を推進する上で非常に大きいと考えられる。 ProlesenとLesecurriculumの特徴及び基礎学校での運用状況の把握と分析については、訪問調査を行い、実際にどのように展開しているのかを直接聞き取ることができた。担当者の口から直接語られたベルリンの状況は、我が国と同様のものであり、それをどう克服していくかという過程を詳細に聞き取ることができたことは、我が国の授業改善を進めていく上で参考になるものと思われる。 また訪問調査の結果、Prolesenは現在も進行中のプロジェクトであり、今後もその進捗状況を把握することが必要であることが明らかになった。 年度当初に予定していたことのうち、十分に達成できなかったことは、基礎的な文献の翻訳と分析である。これは、訪問調査等を踏まえて、新たな文献、とりわけ実践事例に関する文献を入手したものの、その翻訳の優先順位を付けるために時間を要したことによるものである。
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今後の研究の推進方策 |
2年次は、ワーキンググループを継続して開催し、さらに対象となる教科等を広げて分析していく。特に理科、体育、音楽に重点を当てることで、より幅広い範囲で読解力を検討できるものと考える。また、各教科等に共通する読解力の要素を集約することで、読解力全体の枠組みを仮説的に設定し、それをもとにして国語科で求められる読解力を明らかにしていくこととする。 なお、各教科における読解力のとりまとめに当たっては、国立教育政策研究所の各教科等の担当の教育課程調査官から、専門的な意見を聴取して反映させていくこととする。 また、訪問調査で入手した文献について翻訳と分析を進めていく。特に自然科学系の教科での読解力を向上させる授業実践について、ベルリンでも未公表の資料を入手することができたことから、この実践の分析を優先的に進めていくことで、我が国の取り組みの参考となる知見を得ていく。 訪問調査の結果、Prolesenはすでに確立した研修システムではなく、ベルリンの教育課題を克服しながら授業改善を図っていく、現在進行形のプロジェクトであることが分かった。LISUMの担当者とは、今後も継続的に情報交換を行うこととしている。そこで、2年次においても訪問調査を行い、その進捗状況を把握することとする。2年次の訪問調査の重点としては、各教科等において読解力向上を図る授業がどのように構想され、実施されているのか、それはどのような教育効果をもたらしているのかについて、具体的な事例を把握することがあげられる。 なお1年次及び2年次前半までの研究の経過についてとりまとめ、学会等で報告し、今後の進め方について意見を聴取することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
ワーキンググループの開催及び学会での発表と情報収集のため、国内旅費として450千円。 第2次ベルリン訪問調査の経費として、海外旅費450千円、通訳謝金150千円。 ベルリンで入手した文献の翻訳謝金として445千円。 関連する書籍購入のため50千円を使用する予定である。
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