本研究の目的は、(1)我が国やドイツの学校において多様に実践されている「政治教育・シティズンシップ教育」の歴史と現状を調査・分析し、その複雑な教育パターンを類型化・体系化するとともに、(2)文化(文化財・文化遺産・文化政策)に関する教材を開発し、実践することによって、「公共」に主体的に参画する意識や態度を身に付けた市民を育成する「政治教育・シティズンシップ教育」の意義と可能性を究明することである。 本年度は、大きく二つの方向から研究を進めた。 第一に、平成20年の学習指導要領の改訂における改善の一つである「法教育」の充実を図ったことである。これは、裁判員制度の実施など我が国の司法制度の改革などに起因するものである。そこで、シティズンシップ教育の観点から法教育、とりわけ「模擬裁判」の授業の意義と課題を検討した。まず、法教育とシティズンシップ教育の関連について概観し、つぎに、「模擬裁判」の授業の意図と実際を報告し、最後に、「模擬裁判」の授業のシティズンシップ教育としての可能性と課題を提示した。 第二に、「文化」の学習が「公共」への参画にどのようにかかわるのかを模索することによって、今日、重視されようとしている「文化学習」の在り方ついての方向性と可能性を探った。そこで、まず、戦後の小・中学校の社会科教育における「文化」の取扱方の変遷とその特色を素描した。その上で、「文化学習」が隆盛した時期の背景、その学習理論の特質を明らかにし、「文化学習」が「公共」への参画にどのようにかかわるのかについて検討し、「文化学習」の意義と可能性について問題を提起した。
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