研究課題/領域番号 |
23531248
|
研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
新山王 政和 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10242893)
|
キーワード | 音楽科授業研究 / 音楽表現活動 / 音楽鑑賞活動 / 言語活動 / 学習指導要領 / 音楽の諸要素 / 音楽構成要素 / 授業プラン |
研究概要 |
本研究では、「音を出すことと聴くことは可逆的かつ不可分なものであり、他者と自己の演奏の違いを聴き取れるから演奏表現が幅広く豊かになり、表現の技術や知識があるからこそ演奏上の変化を聴き取ることができる。“知覚と分析”をコアとして表現と鑑賞を一体化させることで、自分なりに音楽的意味や価値を付加しながら感情や情動を呼び起こす仕組みや仕掛けを思考判断し、それを言語活動によって他者との共通理解に高めることで表現や鑑賞へ還元する活動を模索する」ことを共通理解として実践協力者と研究を積み重ねている。研究1年目は「音楽の諸要素や仕組みが表現と鑑賞の両方へ作用していることに気づかせることで、音楽的意味や価値を考えさせることができる。この活動を通して曲を分析する力や聴取力を身に付けるプロセスを体験し、意見交換を通じて他者へ伝える言語表現力にも繋がっていく」ことを確認しているので、研究2年目では「“聴く”と“聞く”を区別する」と「“音楽の鏡”を持たせて見方を教える」ことの有効性について確認することを課題とした。 「研究2年目の確認事項」本学附属小学校2校と附属中学校2校における研究授業および自主実践に加えて、名古屋市・豊田市・稲沢市の各音楽教育研究会へ依頼して一般校の目線でも研究授業等を積み重ねて貰った。その結果、“演奏”や“聴く”行為そのものが創造的な活動であることを理解させた上で、“聴く/聞く”と“音楽の鏡”を絶えず意識させながら模範演奏と自分達の演奏を聴き比べて演奏表現を磨き上げる活動を通じて、子ども達へより具体的に音楽を聴く“聴き方”を習得させることは十分可能であることが確認された。その際に必要とされる活動は、①聴き方のパターンや型を知る ②聴く・分析する・想像することを意識させる ③作曲者の作戦を推理させる ④制約の中で工夫された表現を推理させる、の4つであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究2年目では、研究実践協力校を増やして事例収集を幅広く行うことで、実現可能な実践モデル構築のための基礎資料を収集することを第一の課題とした。研究1年目から実践協力して貰っている愛知教育大学附属小中学校4校においては、実践が2年目に入ったことからより深い視点から授業プランを試行することが可能となり、それぞれの教育研究大会でも披露することで参観者から有益な示唆を頂くことができた。本学附属学校での取り組みは次年度にも継承されており、既に次回研究大会へ向けた取り組みが始まっている。また、本科研費研究期間に任期を終えて一般校へ復帰した教員の中には、在任時と同じように研究実践に取り組みレポートを寄せて下さる方もあり、将来的にはそれらの教員を核として研究実践がさらに広まる方策を計画したい。 これらの本学附属学校を中心とした実践の積み重ねの成果を参考にしながら、特に研究2年目は一般校の先生方へ実践事例の提供と提案を積極的に行うことで、研究への理解と実践協力を募ることに力を入れた。筆者が2012年度中に講演、研究授業案作成時の指導・助言などを行った研究会は次のとおりであり。岡崎市現職教育研究会、尾張教育研究会愛日支部音楽部門研究会、愛知県西春日井地区音楽研究サークル研修会、小牧市音楽教育研究会、稲沢市現職教育研究会、知多教育研究会、安城市教育研究大会、豊橋市小中学校音楽研究会、刈谷市教育委員会研究指定授業研究大会、防府市中学校教育研究会。 以上のことから、研究2年目は当初の計画通りほぼ達成されたと判断している。今後に向けたさらなる課題は、研究の成果を広く教育現場へ還元する方策である。本研究の期間は3年間であるが、実践事例の収集、その分析と考察に多くの時間を要することから、研究成果を十分に紹介普及することが難しい。将来的な課題としても視野に入れながら、最終年度の努力目標としたい。
|
今後の研究の推進方策 |
研究1年目と2年目の成果を受けて次年度継続して検証すべきポイントを①録音⇔確認”の声掛けのタイミングと方法 ②自分達の録音と模範演奏の違いを感じ取れない子どもへのアプローチ ③技術指導のタイミングとそれを促す働き掛け方 ④演奏表現を深めるために必要な教師による指導の頻度、の4点に措定している。 具体的な推進方策は次のとおりである。まず、これまでに愛知教育大学附属小中学校4校で取り組んだ研究実践をまとめた報告論文などの抜刷を愛知県内の小中学校へ配布・紹介することにより、本研究で取り組んでいる言語活動を触媒として音楽表現と音楽鑑賞を連携させることの教育的効果や意義について小中学校教員の理解を得るよう努力する。また、本学附属小中学校および名古屋市・豊田市・稲沢市の音楽教育研究会に加えて新たに小牧市でも研究実践を開始して貰うよう準備を進めている。さらに次年度は本科研費研究の最終年度にあたるため、これまでに収集蓄積してきた実践事例の分析と考察に力を入れ、研究のとりまとめに取り組む。そこで整理した研究成果は、筆者が担当する授業研究会や講演・ワークショップ、愛知県教育委員会10年経験者研修や教員免許更新講習などで積極的に紹介し、教育現場への還元に努める。 以上のように研究実践と事例収集およびその分析を継続するとともに、研究のまとめとして次年度では愛知県音楽教育研究会H25年度研究大会(稲沢市)においてこれまでに積み上げてきた実践の報告発表を研究実践協力者である小中学校の教員が行い、研究代表である筆者も講評を行う。あわせて文科省より音楽科教科調査官を招いて実践に対する指導高評と今後の課題等について助言を頂く。これを契機として、本研究課題だけに止まることなく、より広い見地から音楽科授業実践について理解を得るとともに、音楽科教育の意義や重要性についてさらに理解が深まることを企図している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
これまでに積み重ねた実践と分析結果を教育現場へ紹介普及し研究成果を還元するために、報告論文の抜刷(本学研究報告62輯、本学教育創造開発機構紀要第3号)を作成して、主に愛知県内の小中学校へ配布する予定で準備を進めていたが、納品が遅れたために印刷費として確保していた金額が次年度へ繰り越しとなった。これに加えて次年度で取り組んだ実践についても報告論文にまとめ、その抜刷を筆者が担当する授業研究会や講演・ワークショップ、愛知県教育委員会10年経験者研修や教員免許更新講習などで積極的に紹介することで、本研究で取り組んでいる言語活動を触媒として音楽表現と音楽鑑賞を連携させることの教育的効果や意義について小中学校教員の理解を得るよう努力する。それらの印刷のために「その他」の費目として使用する。 さらに次年度より新たに研究実践に取り組んで貰う小牧市音楽教育研究会で必要とするICレコーダーを購入するために「物品費」として使用する。さらに、研究1年目と2年目から研究実践に取り組んで貰っている協力校については、経年劣化で破損したICレコーダーの補充と交換を行う。それに必要な台数を購入するために「物品費」として使用する。これについては科研費補助金申請時には研究協力者には謝礼を支払う計画であったが、実践協力者が謝礼ではなく研究実践で使用するICレコーダーの現物支給を希望したため「謝金等」の費目および「その他」の費目からもICレコーダー購入費用を確保する。 これに加えて、次年度は中四国音楽研究大会の引き受け地区である山口県音楽教育研究会でも研究実践に取り組んで貰うので、研究授業の参観や研究協議会の参加および研究打ち合わせのために愛知県と山口県を複数回往復する必要がある。また、成果発表や資料収集のために学会や研究会へ参加するため、それらにかかる費用を「旅費」として使用する。
|