研究概要 |
本研究では、“音楽的経験”を相互人間関係的プロセス(Bruscia,1986)ととらえ、①実践者と対象者の“音楽的対話”を可視化するツールを改善し、②“音楽的経験”における形式化の意義の明確にした上で、③“音楽的経験”“感性”を軸としたカリキュラム構成を提示することを目指した。本研究における“音楽的対話”とは、言語行為だけではなく、非言語行為や前言語段階の相互反応的な構造も含めるが、これは実践対象者の“感性”の解釈のみならず、実践者の“感性”“臨床知”をも研究対象とすることを重視するからである。 今年度は、生気情動と音楽フレーズの同型性に着目するHenk Smeijstersと、空間における動きの体験に基づいたメタファーと相互に繋がることで音楽的体験と感情的な経験との繋がりを説明するAigenの言説の比較分析を行った。音楽について言語による解釈を超えようするSmeijstersは、言語的交流の背後では常に非言語的水準の交流が展開しており、この水準でも言語化されない知識(関係性をめぐる暗黙の知)が集積されるとするボストン変化プロセス研究会 の影響を強く受けていることも明らかにした。言語的に理解されることによって意味が生成するのではなく、情動や感覚といったレベルでの交流の中で意味が生起するという視座は、音楽科教育における「言語活動」の充実を検討する際に意義があると考える。
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