研究課題/領域番号 |
23531254
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
土屋 英男 京都教育大学, 教育学部, 教授 (20188577)
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研究分担者 |
湯川 夏子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (40259510)
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キーワード | 五感の体験教育 / 教育プログラム / フランス版味覚教育 / 日本版味覚教育 / うま味 |
研究概要 |
25年度の研究は日本版味覚教育プログラムの構築に向けて直接必要な情報を入手することにあった。すなわち栽培から調理までを通した食農教育の実践に関する中学校現場対象の調査研究,日本料理の素材である良質な野菜等を,料理人の要求に応じて生産する技術力の高い農家の栽培方法に関する情報収集,外国人と日本の子ども達の味覚の際に関する調査,などである。 学校現場にて野菜の栽培と調理を一貫して指導することにより,食に対する理解を深めるだけでなく,食材のありがたさや生産者への感謝の気持ちを育むことが可能となった。また,教員の負担は大きくなるものの,生命を大切にする心の育成まで可能となった。 主として料理人に提供する野菜などの素材を栽培している生産者からの聞き取りでは,料理人からの要求は様々であり,最終的な判断は生産者が旨いと感じる生産物を提供することになり,それに応じる栽培技術が要求されること,料理人は野菜の形状,色,大きさへの要求も強いこと,料理人の細かい要求に応じるには多品目少量生産することになり,その結果減・無農薬有機栽培になること,などが認められ,生産者の栽培方法や技術的進歩に利用者である料理人の素材への要求が大きく係わっていることが示唆された。 外国人の味覚を日本人のそれと比較すると,特定の味について大きな相違が認められた。とくにコンブの味に関しては,外国人の評価は低い傾向に有り,生臭く海臭いとのネガティブな評価が目立った。日本の子どもについては,「うま味」の評価が想定したよりも敏感であった。カツオやコンブの評価は想定通りであったが,シイタケの味は評価が低く,『いりこ』のうま味は評価が高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度までの主な研究計画は概ねこなしてきており,総体に順調な進展といえる。ただしその多くが,本研究で必要な段階までで留めているため,本来はさらに研究を進めてみたい思いを残している。テーマによってはさらなる進展を,26年度に可能であれば追求してみたい。 料理人や作物生産者を対象にした情報収集では,その対象者の数が限定的であること,個人的な理由により必ずしも本研究に協力的でない場合もあること,本業で多忙な方が多く,インタビューのタイミングが限られることなどの理由により,データの収集にかなりの困難を伴った。まだ対象者は存在するものの,これから先の情報収集は非効率的なものとなることが予想され,今後の情報収集に大きな期待は困難であろう。 昨年に日本食が世界文化遺産に登録され,そのため日本食を対象にした味覚や味覚教育に係わるシンポジウムなどの行事が多く実施されることを予想し,それに参加することでさらなる情報を収集する予定であった。しかるに,当初はそうした行事が多数あり,それからの情報収集は順調であったが,そうした流れは思ったほど長続きせず,従ってそこでの情報収集は少量にとどまった。今後も,関連するイベント等からの情報収集は期待できそうにないであろう。 京都においてここ数年継続実施されている市立小学校での,和食の一流料理人による食育授業は25年度においても見学し,本研究に係わる重要な情報を入手できた。これらは26年度に予定している日本版の味覚教育プログラムの作成に直接有益な情報であり,これまで収集した情報と併せて活用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は主に4つの内容を実践し,本研究の仕上げとしていく。まずこれまでの成果を取り入れた日本版味覚教育プログラムの原型を完成させ、それを学校現場において実践することである。可能な限り繰り返し実践し,その都度修正を加えて完成度を高める。国公立の小学校での実践を予定している。 つぎに,その味覚教育プログラムを評価するため,プログラムを実践する予定の学校での授業において,児童の味覚に関する知識,味わい方,味覚の感度などに係わるプレ・ポストテストを児童を対象に行う。これよりプログラム実践上のさらなる課題を見いだして,プログラムにさらなる改良を加えていく。最終的には味覚教育の実績がそれまでに無い学校現場においても,実用に耐えうる内容を有するプログラムとすることを目指す。 次いで,これまでに食農教育,味覚教育を実践してきた学校を対象に,本プログラムでの実践を依頼し,その教育効果と従来の味覚教育のそれとを比較してもらう。味覚教育(食教育)担当の教員に対して両方法の教育効果について調査し,本プログラムの従来のプログラムより優れた特徴などについて検討する。 最後に,これまでの成果を纏め,報告書を作成する。これに基づき,学会等への公表やウェブサイトへの公開を実施して,学校現場における本成果の共有化と,本プログラムの普及を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に予算を組み実施した料理人への聞き取り調査12名分の謝礼(情報提供費)がいずれも発生しなかったこと,世界遺産登録に伴って多く開催されると予想された和食関連のイベントが,思ったより少なく,その旅費の出費が控えめになったこと,学校現場で実施した味覚教育の実践に用いた食材や調理器具等が想定より廉価であったこと,などが原因で,次年度使用額が発生した。 次年度に実施を予定している小学校での味覚教育では,味覚の閾値(感度)の測定も可能であれば実施したい。その場合,閾値測定に使用する薬剤などの計量には精度の高い機器が必要となる。その購入またはレンタルに係わる費用や実施のための用具・機器類調達の費用に,主に使用する予定である。
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