本研究は、音楽科において学力育成に寄与する伝統文化の教育を実現するために、義務教育9年間の和楽器合奏の教材プログラムを開発することを目的とした。 1,2年度では、9年間の教材プログラムの原案を作成し、大阪教育大学附属平野小・中学校にて授業実践を行った。合奏の内容は、わらべうたを教材に、箏を中心としてそこに竹や和の打ちものを加え、中学校ではさらに篠笛、三味線を加えていくという形態とした。教材プログラムは附属学校で実践したのち、大学院生が地域の公立校で実践検証を行い、だれでもどこでも実践可能なように汎用性をもたせるべく改訂を重ねた。授業はビデオ記録をとり、プログラムの映像モデルとしてDVDに編集した。また、毎年附属学校の全国研究会で授業を公開し、校外音楽会で演奏を披露し、全国の教員や保護者等へ継続的に発信した。その間、伝統音楽を学校教育に先進的に取り入れた韓国の音楽授業を現地で参観し、楽器の演奏技能向上を学力とする韓国の学習との違いとして、本プログラムが原理とした生成のコンセプトによる学力形成の独自性を検証した。最終年度では、大阪で伝統音楽国際シンポジウムを開催し、本プログラムで5年間教育した子どもたちの生演奏を含めて成果の発信を行った。 本教材プログラムの独自性は、和楽器演奏の技能伝達にとどまらない、知覚・感受を核とする音楽科の学力育成という点にあった。そのため授業方法では、音探究から音のコミュニケーションを通して合奏を形成していく生成のアプローチをとった。そこでは和楽器合奏を器楽分野にとどめるのではなく、包括的な構成活動として音楽カリキュラムのコアに位置づけていくことが有効であり可能であることが今後の課題としてみえてきた。
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