研究課題/領域番号 |
23531266
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研究機関 | プール学院大学 |
研究代表者 |
佃 繁 プール学院大学, 国際文化学部, 准教授 (90513721)
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キーワード | 社会関係資本 / 感情教育 / 共感性 / エンゲストローム / 活動理論 |
研究概要 |
平成24年度は社会関係資本の基礎を育成する感情教育の理論の構築のために、エンゲストロームの活動理論との関わりを検討した。社会関係資本は、協働を伴う活動に機能する。活動理論は、個の行為(action)と集団の活動(activity)の連結を説明する。社会的ネットワークへの参入を動機づける上で有効な「感情」がいかなるものであるか、活動理論の観点から探究した。 活動理論によるなら、個の行為は帰属する共同体活動の分業として行われる。それに関連して、次の4つの様相において感情がはたらくと考えられる。(1)共同体の帰属と規範に関する感情、(2)共同体活動への分業的参加に関する感情、(3)行為における道具使用を指向する感情、(4)分業と道具使用に関するルール遵守の感情の4つである。この4つの様相において、個を社会的ネットワークへの参加を促す感情教育のあり方を構想する方向で研究を進める。 平成23、24年度を通して、言語哲学的な観点から(1)の共同体への帰属と規範的感情に関連する基礎的考察を行ってきた。母語習得による社会化の過程で獲得される資質能力のうち、他者との意味の共有を可能にするコミュニケーション能力がある。クワイン、ディヴィドソンは、価値や真理の多くを他者と共有するとみなすことで、言語的交流が生じるとした。「寛容の原理」と呼ばれるこの原理こそは、共感性の基礎を育成する感情教育の根本的要素の一つである。 それと並行して、協同学習の分析を通して(1)~(4)における感情教育の可能性を検討している。エンゲストロームによれば、活動システムの諸要素に当該社会の内的矛盾が浸透し、それによって活動が作動する。個と集団の共感性も、内的矛盾と独立にはありえない。協同学習における矛盾と解消が共感性とどのような関連をもつか、それを明らかにすることで感情教育の方向性を見出したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
哲学、社会学との関連から意味の共有と共感性について理論構築する作業は順調に進んでいる。今年度で3本目の論文を作成する予定である。 遅れが生じているのは、ポスト・ヴィゴツキー派の理論を整理して感情教育の論考に向か当初の予定を変更したからである。エンゲストロームの活動理論は、資本主義経済における感情教育のあり方に有効な視点を提供しうることを発見した。そこで現在、文献調査をエンゲストロームにしぼって継続中である。エンゲストロームの文献は非常に多い(著書29冊、200本近い論文)。それにもかかわらず翻訳が少ないため、文献調査に時間がかかり、計画の進行が当初の予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、3年間のまとめとして次の2つについて研究をおこなう。(1)平成23,24年度に引き続いて、言語哲学と社会学的システム論にもとづく意味の共有と社会関係資本との関係の考察をおこなう。このテーマについて3本目の論文を作成する。(2)活動理論の視点から共感性を分析し、感情教育の要素を明らかにするとともにカリキュラムの構成要素と比較検討する。 (1)は個の次元における感情教育、(2)は個と集団の関係性の次元での感情教育のあり方について理論的な考察となる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次の2つの費用が必要である。一つは、エンゲストロームの文献収集のための費用であり、もう一つは、3年間の研究のまとめを発表するための費用である。しかし残りの研究費では難しいため、不足分については個人的に準備する。
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