研究課題
研究課題について活動理論と行為論哲学の成果を整理し、次の2点を確認した。(a)エンゲストロームの活動理論では「集団発達の最近接領域」概念が提唱され、活動システムの変換や他システムとの協働の局面に社会関係資本が活用される。(b)ディヴィドソンの行為論とルーマンのシステム論は、「個/集団」という異なる次元の社会関係資本を連接し、「個-集団の共感性を育成する感情教育」のカリキュラムを提供しうる。エンゲストロームによれば、集団の内的矛盾を資源として特定の個に生じた拡張的学習がすべての成員に広まるとき、集団は発達し次の局面に移行する。協働とは他者に生じた拡張的学習の自己への適用の過程であり、その協働を促す「感情的道具」として機能するのが共感性である。よって共感性は社会関係資本をもたらす要因の一つとみなしてよい。感情教育の目的は社会関係資本獲得のための資質として共感性を育成することである。ディヴィドソンの理論は、感情教育のミクロな方法論を提供する。ディヴィドソンの言語哲学の帰結である「寛容の原則」は、他者関係があくまでの主体の能動的信頼によることを根拠づける。またディヴィドソンの行為論では、信念と欲求からなる「基本的理由」が行為の原因となることを明らかにしている。共感性育成の感情教育プログラムの要諦は、「基本的理由」に「寛容の原則」が組み込まれるべく学習内容と学習方法を構成することにある。ルーマンのシステム論は、ミクロに生じた感情教育の成果を集団に拡張するための理論的根拠を提供する。個の共感性は集団発達の過程ではたらき、社会関係資本を産出する。したがって感情教育プログラムのマクロな目的は、個-集団を結ぶ方法を習得させることにある。ルーマンの構造的カップリング概念を活用することにより、心的システム(個)と環境(集団)の相互依存関係をつくりだす感情教育プログラムが可能である。
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プール学院大学研究紀要
巻: 第54号 ページ: 15-29
巻: 第53号 ページ: 151-176
巻: 第53号 ページ: 89-107
巻: 第53号 ページ: 109-149