研究課題/領域番号 |
23531286
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
西村 優紀美 富山大学, 保健管理センター, 准教授 (80272897)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / コミュニケーション教育 / 大学生支援 |
研究概要 |
平成23年度は自閉症スペクトラム障害者への対人的コミュニケーションに関するインタビューを行った。どのような社会的交流の場でどのような心理的交流が展開されるのかを明らかにすることが目的であった。対象は富山大学で支援を受けている自閉症スペクトラム障害の学生と卒業生が中心で、その他に、社会人として就労しながら発達支援センター等で継続的な支援を受けている当事者である。ここでは、発達支援センターの職員にもインタビューを行い、コミュニケーションワークの実施とその効果について助言を受けた。コミュニケーションワークとして行ったことは、(1)ランチ・ラボ、(2)表現ワークショップである。ランチ・ラボでは、会食しながら雑談をした後、テーマを取り上げてそれぞれの考えを表明するというものであり、コミュニケーションに苦手感を持つ自閉症スペクトラム障害者は、安心できる空間の中で、少しずつ質的・量的に表現の豊かさを増していった。次に、相互交流の場を多面的・多次元的に提供する表現活動を中心としたワークショップを企画・実行した。このプログラムには高機能自閉症スペクトラム障害当事者に企画段階から参画してもらい、実践しながら意見交換しプログラムを作成していった。初年度である23年度は、高機能自閉症スペクトラム障害の優位な認知特性から取り組んだ。優位感覚である「視覚認知」の分野からのアプローチを行い、「数」や「絵画」をコミュニケーションの媒介として取り上げていった。優位な認知特性がコミュニケーション上の困難さを和らげる効果があり、自発的な言語表現を促進した。具体的には、(1)楽器を使用した音楽ワークショップ、(2)表情カードを使用したワーク、(3)墨絵アート、(4)数字ワークを行った。参加者がどのように認識の変容が起き、行動に変化をもたらすかについてビデオ分析を行い、インタビューも合わせて実施することによってより詳細なデータを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成人の自閉症スペクトラム障害者が支援を受けている発達障害者支援センター等でワークショップを開催したが、社会参加している当事者に対するコミュニケーションスキルを育成するプログラムの有効性を実証することができた。また、大学の修学支援において、彼らの成長と共に、自身のコミュニケーションに関する自己理解が促進され、より高次のコミュニケーションスキルを希望する学生が増えてきた。 自分を客観的に眺めることが困難な特性があるが、実際に身体を動かし、制作活動に取り組み作品を作り上げることで、他者との交流が目に見える形で示され、一連の流れが自己理解促進に大きな効果があったと思われる。 本研究のアプローチは、当事者が企画段階から実行に至るまでのプログラム全体を推進する立場としての役割を持つプログラム開発がもっともユニークなところであるが、そのことが予想以上に効果的であった。当事者が実際の表現活動の中で行われる自身の体験を、社会的対話の中でどのように意味づけつつ自己変容するのかという経験的学習の側面に焦点を当てるものであり、コミュニケーション研究において斬新なものであると考えたが、それが実証されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度に引き続いて、当事者を共同研究者として依頼し、優位な認知特性を活用したコミュニケーション・グループワークを展開する。当事者がグループワークのリーダーとしての役割を担い、役割を交代することによって起きるコミュニケーション場面における意識の違いを体験し、そこで展開される相互コミュニケーションを質的に分析していく。グループワークにおいて、参加者それぞれが経験する一人ひとりの体験物語は、活動後のグループディスカッションを経て共通の物語として共有されることが実証されているので、当事者が活動を推進するリーダーの役割を担うことで、当事者が自分自身の一方向的な視点だけではなく、他者の視点を体験することができ、コミュニケーションの前提である、「他者のパースペクティブ」の存在を認識する機会となると考えている。 また、前年度は優位な認知特性をコミュニケーションツールとして活用したが、平成24年度は苦手な分野とされる「創造的表現活動」や「即興的表現活動」に焦点を当ててプログラム構成を行う経過鵜である。扱われるテーマが曖昧であったり、新奇なテーマであることにより、コミュニケーション場面に対する抵抗感や他者とのコミュニケーションに混乱をきたすといわれているが、その傾向は当事者にとって絶対的な困難さなのかという疑問に対する反証的なアプローチである。前年度の行ったワークショップでは、むしろ新奇な事柄に対する好奇心の大きさとその結果への期待感が彼らの参加意欲を強くしているように見受けられた。今後は実際のワークショップを経て、インタビュー内容を精査し、結果を検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費(コミュニケーションワークショップ関連,高機能発達障害関連図書,楽器,PC周辺機器・ソフトウエア,文具・紙類)旅費(インタビュー,ワークショップ開催,打ち合わせ、シンポジウム講演者) 人件費・謝金会議費・通信費・印刷製本費
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