研究課題/領域番号 |
23531286
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
西村 優紀美 富山大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80272897)
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キーワード | 発達障害大学生 / 心理教育 / 小集団活動 / コミュニケーション支援 |
研究概要 |
高機能自閉症スペクトラム障害者のコミュニケーション教育に関する研究において、彼らの得意な認知特性を活かしたコミュニケーション教育法の開発を昨年度に引き続き行った。アプローチ方法に関しては優位な認知特性を活用しつつ、言葉の厳密さを最大限に発揮できるプラグラムの構成を試みた。支援者や学生同士の豊かなコミュニケーションの場を提供することによって、彼らにとって苦手とされる社会的コミュニケーションの能力が最大限に発揮されるのではないかという仮説を実証できる結果を得た。つまり、SSTに代表される行動心理学的な理論に基づくアプローチではなく、当事者が実際の表現活動の中で行われる自身の体験を、社会的対話の中でどのように意味づけつつ自己変容するのかという経験的学習の側面に焦点を当てるものであり、コミュニケーション研究において斬新なものとなった。グループワークにおいて、参加者それぞれが経験する一人ひとりの体験物語は、活動後のグループディスカッションを経て共通の物語として共有される。当事者が活動を推進するリーダーの役割を担うことで、当事者が自分自身の一方向的な視点だけではなく、他者の視点を体験することができ、コミュニケーションの前提である「他者のパースペクティブ」の存在を認識する機会となった。コミュニケーション・グループワークの場において、彼らはテーマを媒介として他者の存在を認識し、他者の考えや意見に耳を傾けることができた。さらには、他者のパースペクティブを小集団のパースペクティブを通して理解が可能になり、コミュニケーション場面における社会的対人交流の仕方に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。小集団活動において、「表現する側」と「表現を受けとめる側」のそれぞれの立場を交代で体験することにより、個人では考えられない新しい視点を得ることに気づくことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ほぼ目的としていた内容を実行することができ、必要なデータを得ることができた。彼らの苦手な分野とされる「創造的表現活動」や「即興的表現活動」に焦点を当ててプログラムを構成し実践を行った。扱われるテーマが曖昧であったり、新奇なテーマであることにより、コミュニケーション場面に対する抵抗感や他者とのコミュニケーションに混乱をきたすといわれているが、コミュニケーションのツールの工夫で、好奇心を持って活動に参加し、むしろ新奇なことや曖昧さを楽しむ姿を見ることができた。 「コミュニケーション・グループワークの場において、彼らは他者の存在をどのように認識しているのか?」という点については、他者の考えや意見を正確に受けとめ、自分の意見や考えと比較し、相手の考えを尊重する態度が見受けられた。「彼らにとって、場のコンテクストを了解することがどのような心理的意義を持つのか?」という点については、自分自身の表現(言語的・身体的)への安心感を生み、積極的に活動に参加する意欲につながった。「他者のパースペクティブを知ることが、コミュニケーション場面における対人交流に影響を及ぼすのか?」という点については、むしろ、他者のパースペクティブを読み取る能力が高く、それが明確でない場合に、相手に尋ねることで曖昧な点を解消しようとする傾向にあった。「他者理解が自己理解によい影響を及ぼすのか?」という点については、自分自身のネガティブな面に目を向けがちだった当事者が、他者の中に自分自身を映し出し、ポジティブな面にも目を向けることができるようになった。「新たな他者認識が創発された場合、日常的なコミュニケーション場面でそのことがどのような影響を与えるのか?」という点については、自尊感情が高まり、自己否定感が薄れることによって、自信を持って社会的活動に参加できるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのアクションリサーチで得られた高機能自閉症スペクトラム障害者に対するコミュニケーション教育に関する知見を、一つのコミュニケーション育成プログラムとして体系的にまとめていく。そして、既に平成19年度より取り組みを開始している富山大学における発達障害学生支援の中に、「コミュニケーション育成プログラム」として位置づけ、コミュニケーションに困難さを持つ発達障害学生に提供していく。また、24年度より障害学生のピア・サポーター養成プログラムとしてこのコミュニケーションプログラムを授業の中で実験的に行っているが、今後は理解啓発やサポートの在り方を体験的に学ぶ研修会プログラム、また、当事者も含むコミュニケーションワークショップの開発を行い、健常者と当事者の異文化交流の場として、広く周知していく予定である。高機能自閉症スペクトラム障害に加え、注意欠如多動性障害の特性は、前者と同様のコミュニケーション上の課題を持っていることが多い。それぞれの特性に合ったプログラムを作成し、より多様なタイプの当事者にフィットするような形態が必要であると考えている。また、このコミュニケーション教育法の意義を国内、国外に公開するために、国内外における学会報告および、フォーラム開催を行うとともに、報告書をまとめ、出版する。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費500000円、繰り越し122180円、合計 622180円 物品費: 30000円、旅 費:200000円、人件費・謝金:192180円、その他:200000円 合計:622180円
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