本研究は、高機能自閉症スペクトラム障害者の社会的コミュニケーション能力を促進し、優位な認知特性をコミュニケーションツールとして活用するプログラムの開発を目的としている。自閉症スペクトラム障害の特徴である社会性・コミュニケーションの困難さは、その場のコンテクストが明確に示されていない場合に起こりうる問題であり、個体としての能力のみに帰することはできないとの仮説の元に、いくつかのコミュニケーション場面を設定し、ナラティブ・アプローチによる質的研究を行った。コミュニケーション場面は、次の三つの場面である。①自閉症スペクトラム障害者がファシリテーターとして行うコミュニケーションワークショップ、②芸術的活動を通したコミュニケーション活動、③テーマトークを主体とした小集団活動である。 高機能自閉症スペクトラム障害者は「場のコンテクスト」を作り出す主体者としての役割を担う場合、コミュニケーション上の問題は起こらないばかりか、参加者の表現を引き出すための工夫や言葉がけの工夫などを自らが率先して行い、より良いコミュニケーションの場を作り上げる努力をしていた。その大きな要因は、以下の三点であった。①支援者が活動の意図と意味づけを言語化し明確に伝えることによって、自らの役割を認識することができ、活動の目的に沿ったファシリテーターとしての役割を実行することができた、②直接的なコミュニケーションではなく、芸術的表現活動を媒介にした三項関係の中で、対人的緊張感を感じることなく、コミュニケーション活動に参加できた、③小集団活動の中で自分自身の振り返り、将来への展望を含めた将来像を語り合うことによって、日常に近似した状況での表現の仕方や非言語的コミュニケーション様式を学ぶことができた。以上のプログラムによって、自己理解・他者理解が促進され、コミュニケーションそのものへの不安感が解消されていった。
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