研究課題/領域番号 |
23531306
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研究機関 | 白鴎大学 |
研究代表者 |
仁平 義明 白鴎大学, 教育学部, 教授 (10007833)
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キーワード | 発達障害 / 職業 / エビデンス / 優れた能力 / 校正課題 / 顔認知 |
研究概要 |
本年度当初は,発達障害のうちでも,ADHD傾向についての検討を中心に行った.実験的検討と文献的検討の両面からの検討である.この部分の成果は,論文とシンポジウムでの2つの発表として公表した.(1)「急速反復書字によるスリップの発生メカニズム:ADHD傾向のアナログ研究」,(2)「12の障害の”いじめ被害発生率“のちがい―ブレイクたちによる全米大規模追跡調査の分析―」である.前者では,すでにとっておいたデータを新たに分析した研究であり,後者は,文献研究から,ADHD傾向者が発達障害の中で最もいじめの対象になる頻度が高いことと,その理由をブレイクたちの研究と他の研究を照合して指摘したものである.いずれにしても,前年度のようなADHDに有利な課題が明らかになったというよりは,ADHD傾向者をとりまく背景を示したものにとどまった. もう一つの検討,自閉症傾向と校正課題のパフォーマンスの関係の分析は,障害傾向にともなうパフォーマンスの分散が大きいために効果量も小さく,有意な結果には達しなかった. そこで,人の心理的な機能では不利にみえる側面を犠牲にすることで,逆に有利な側面が生まれているという仮説のもとに,反対方向の発達障害者にとくに不利だとされてきた課題の再分析を行うことにした.検討対象は,これまでの言語刺激ではなく,画像刺激処理のパフォーマンスであった.自閉症者は,とくに顔認知が困難だとする知見を,別な目で詳細に分析する計画を立て,研究を開始した.過去のデータを分析することで,自閉症児童の顔認知困難の要素を確定し,英文論文の作成を行い投稿をした.さらに,今後の顔認知の標準化した課題を作成するために,認知の容易さの異なるサンプル顔画像データベースを作成することとし,集成を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究期間延長を申請し許可されている.「やや遅れている」という自己評価の理由は以下の通りである. 発達障害者の能力については,従来,ほとんどの研究が定型発達者に比べて,どのような課題であっても,低いという結果のみが報告されてきた.本研究の目的は,これとは異なり発達障害者にむしろ有利な課題を探索することにあった. ただし,発達障害者に一律に有利な課題があるものではなく,障害のタイプによって処理機構は大きく違いがある.また,障害者のパフォーマンスは個人差分散が大きいために,統計的に有意になりにくく,効果量も小さくなる.たとえば,ADHD傾向者は,その特徴である注意の変動のためにどうしてもパフォーマンスの分散が大きい.その中でモーゼ錯覚のエラー発見成績は良いという結果が得られたが,効果量を測定するとどうしても小さいものになった.発達障害者に有意だという効果量の大きな決定的な課題が発見できたとはいえないため,さらに新奇な課題の検討が必要だからである. ADHD傾向の特徴とADHD者をとりまく問題の検討については,ある程度,シンポジウム等での発表も含めて成果をあげたとはいえる.
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今後の研究の推進方策 |
上で述べたように,これまでにない顔認知処理の標準的課題になりうる刺激の集成を試行的に作成した(発表:「発達障害者の顔認知―Embedded Faces Test (EFAT)作成の試み―」).研究を1年間延長することで,この課題によって,逆に自閉症者に有利な課題の発見を目指すこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
発達障害者に有利な課題になることを期待していた校正課題による実験の結果が,十分な効果量をえることができなかった.そこで関連課題の追加研究を行うとともに,逆に発達障害者に不利だとされた顔認知についても,まったく新しいテストに基準研究を開始した.これらについてエビデンスをもった提案ができるように成果公開シンポジウム経費を取り置くためである, 予定される使途は,次の3つである.(1)校正課題でも,十分に効果量が大きな課題になる条件についての追加研究を行うための経費,(2)従来,発達障害者には不利だとされてきた課題に,逆に障害を補う条件が隠されていないかを探求するため新たな研究を行う経費,(3)これらをもとに成果公開シンポジウムを開催し,障害者にむしろ有利な課題という考え方の普及をはかるための経費.
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