○発達障害者にとってむしろ有利な課題だとエビデンスをもっていえる課題を確定していく一連の研究である。これまで,とくにADHDについての検討を行ってきた。ADHD傾向にある「多動と注意のコントロールの悪さ」因子は,意図しない行為を遂行してしまうスリップ等の発生と正の相関があるが,「注意の転動」は,ときには文章にある特定のエラーの発見等にむしろ有利に働く場合があることが明らかにされた。しかし,この効果量は職業にプラスであることを示すエビデンスだといえる程度の大きさではない。 ○そこで,まったく発想を逆転して,人間の機能でプラスの特徴だとされるものはマイナスの特徴を犠牲にすることで成立しているという可能性を検討するために,これまでむしろ「不得意」だとされてきた課題を再検討し,その不得意の裏に何らかのプラスの特徴が存在しうるかどうかを探ることとした。 ○その対象として発達障害者のうち自閉症スペクトラム者の顔認知を糸口として研究を行うこととした。自閉症スペクトラム者では顔の表情認知が低下していることが報告されてきたが,それ以前の「顔であること」そのものの認知から検討を行った。具体的には,認知健常者なら顔として認知される刺激布置を顔として認知できないという事実についての検討を行った。Navon図形用の部分全体複合刺激を用いたテストの結果,年少の自閉症児では「顔であること」そのものの認知が困難であることが確認された。 ○青年期以降の自閉症者に対する「顔であることの認知」研究を可能にするために,日常的な光景に存在する刺激布置に顔を発見する課題の刺激を収集し,それらが顔であることの認知度がどの程度であるか「顔であることの認知刺激」の標準化を行った。187人の大学生対象者による刺激の標準化では,認知度が80%以上のものから10%以下のものまで,刺激の標準化を行った。
|