本年度の研究業務はデータの追加収集とその分析作業であった。前年度末時点で,幼稚園・保育園年長クラスおよび小学1-3年次生92名のデータを収集したが,更に14名分の追加収集を行った。 本研究課題の独自性は,特異的言語発達障害(SLI)の心理言語学的特徴を明らかにするために,関係節を含む文章の理解能力に着目した点にある。そこで,主語関係節および目的語関係節を含む文理解課題を独自に開発し,当該課題および既成の言語検査(PVT-R,J.COSS,KABC,WISCI-V,DN-CAS,語の逆唱課題),動作性知能検査,作業記憶検査を対象児に実施した。データ解析としては,文理解課題を除く言語検査からSLIが疑われる対象児を抽出し,その後関係節を含む文理解課題の成績を健常発達児と比較した。 SLI 抽出の原則基準は,上記言語検査のうち標準化されている5つの言語検査のうち2つ以上で得点が -1SD以下であることとし,14名を抽出した(SLI群)。次に,この14名に対して生活年齢(月齢)がマッチする健常発達児14名(生活年齢マッチ群),J.COSS検査の成績をもとに言語年齢のマッチする健常発達児14名(言語年齢マッチ群) をそれぞれ無作為に選抜した。これら3群の関係節を含む文理解課題の成績を比較したところ,SLI群の成績は生活年齢マッチ群に比べ有意に低く,SLI群と言語年齢マッチ群との間に差は認められなかったものの,SLI群の生活年齢は言語年齢マッチ群に比べ有意に高かった。こうした所見は,SLIの心理言語学的特徴の一つとして関係節を含む文理解の困難があることを示唆すると同時に,本研究で開発した文理解課題がSLIの鑑別に役立つ可能性を示唆している。なお,最終報告においては,上記の所見に加え,主語関係節と目的語関係節別の検討結果,他の言語・認知検査との関連についての分析結果も反映する予定である。
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