研究課題/領域番号 |
23540003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黒木 玄 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10234593)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 量子パンルヴェ系 / 量子群 / カッツ・ムーディ代数 / ワイル群双有理作用 / ベックルント変換 / τ函数 / 共形場理論 |
研究実績の概要 |
2014年度までに量子化されたτ函数の理論に関する以下の理論を完成・発展させた。 (1)任意の対称化可能一般カルタン行列に付随する野海・山田が構成したワイル群双有理作用を正準量子化し、その作用で生成されるτ函数の量子化にも成功した。この仕事は古典τ函数のケースにτ函数を含むポアソン構造が特定されていなかったので、その意味での新しい。τ変数は単純コルートに対応するパラメーター変数の正準共役変数の指数函数であるとみなされる。 (2)正準量子化されたワイル群双有理作用で生成された量子τ函数たちが従属変数に関する非可換多項式になるという結果を証明できた。対応する古典τ函数の多項式性は野海・山田によって証明された。方法は古典と量子の場合では全く異なる。古典τ函数の多項式性は本質的に行列式がその成分の多項式になることに帰着する。(カッツ・ムーディ代数に一般化された場合には基本表現の最高ウェイトベクトルへの群作用の最高ウェイト空間への射影が群上の多項式函数になることを使う。)一般に非可換行列式は成分の非可換多項式ではなく、非可換有理函数になってしまう。だから、量子τ函数の多項式性の証明には別の方法を見付ける必要があった。量子τ函数の多項式性は表現論における平行移動函手とワイル群作用の整合性に帰着する。 (3)A_∞型の場合に量子τ函数への作用を含む量子化されたワイル群双有理作用の佐藤・ウィルソン表示を構成した。そのアフィンA型への簡約から、本研究で構成された量子τ函数は射影直線上の有理接続で原点の確定特異点と無限遠点の不確定特異点のみを特異点に持つもののモノドロミー保存変形に付随するτ函数の量子化の一般化になっていることがわかる。このケースはパンルヴェII、IV、V型方程式を含んでいる。 以上の理論はすべて量子展開環(量子群)の場合にも一般化されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大きな目標は量子パンルヴェ系および量子モノドロミー保存系の理論を発展整備することである。量子化される前の古典の場合にはτ函数の概念が理論の中で重要な役割を果たしていた。しかし、本研究の計画段階ではτ函数の量子化は何をやったらよいかさえわからないタイプの難しい問題であった。古典τ函数に関するポアソン構造について何も知られていなかったので、正準量子化の通常の手続きを遂行することができなかったのだ。しかし、現在では任意の対称化可能一般カルタン行列に付随するワイル群双有理作用で生成されるかなり広いクラスのτ函数の量子化に成功している。しかも量子τ函数の多項式性を古典τ函数の場合とは完全に異なる表現論的な方法によって証明できている。 さらに本研究の目標には量子共形場理論と量子パンルヴェ系および量子モノドロミー保存系のあいだの関係をはっきりさせることも含まれていた。有理接続のモノドロミー保存変形の量子化はアフィン・リー環を対称性として持つ共形場理論のKZ方程式になることが本研究以前から知られていた(レシェティキン、ハルナッド)。本研究では単独2階の線形上微分方程式の変形がヴィラソロ代数を対象性として持つ共形場理論で記述できることが分かりつつある。たとえばヴィラソロ代数の(1,2)および(2,1)型の特異ベクトルは単独2階の線形常微分方程式の見かけの特異点の量子化になっている。ヴィラソロ代数の表現論の基本的な部分と単独2階の線形常微分方程式における基本的な部分と密接に関係していることは不思議でかつ極めて興味深いことである。 以上のような理由でこの研究は十分順調に進展していると言ってよいのではなかろうか。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果によって、任意の対称化可能一般カルタン行列で定まるセール関係式を満たす任意の非可換な変数の組に対して、量子化されたワイル群双有理作用と量子τ函数を構成することができる。その構成は確定特異点型のガルニエ系(単独高階のケース)の量子化にも適用できる。見かけの特異点がn個で見かけの特異点ではない確定特異点がn+3個の場合に、サイズがr=n+n(n+3)+n(n-1)/2の一般カルタン行列(simply-laced)を自然に対応させることができ、量子化されたワイル群双有理作用と量子τ函数を構成できる。見かけの特異点q_iに関するn個の∂/∂q_iと見かけの特異点を除いた確定特異点t_jに関するn(n+3)個のq_i-t_jとn(n-1)/2個のq_i-q_jは退化したセール関係式を満たしている。たとえばn=1のときr=5となり、アフィンD_4型の一般カルタン行列が得られ、パンルヴェVI型方程式の量子化をこの枠組みで記述可能である(n≧2以上の場合にはアフィン型の枠を外れてしまう)。 以上の構成とは別に、ヴィラソロ代数を対称性として持つ共形場理論を考え、n個の(1,2)型退化場とn+3個の一般のプライマリ場の相関函数によって、単独2階の確定特異点型線形常微分方程式(見かけの特異点がn個、それら以外の確定特異点がn+3個)に付随するガルニエ系の量子化を構成できる。 以上の2つの構成の関係はまだわかっていない。この問題について深く考察すれば量子τ函数と共形場理論の関係が分かるかもしれない。 量子パンルヴェ系と量子モノドロミー保存系を扱うための強力な道具は本研究の量子τ函数と共形場理論である。その二つを結び付ける研究は非常に大事だと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度請求額と合わせて、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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