研究実績の概要 |
2015年度にはパンルヴェ系のτ函数の量子化について秋の日本数学会の無限可積分系セッションで特別講演した。特別講演の内容は以下の通り。 任意の一般カルタン行列に付随するワイル群双有理作用とそのτ変数への作用によって生成されるτ函数(野海・山田の仕事)の適切な量子化を構成した。古典τ函数は従属変数に関する多項式になるが、量子τ函数も量子従属変数に関する非可換多項式になる。この量子版の多項式性の結果はかなり非自明であり、表現論におけるtranslation functorsを用いて証明される。そして、その多項式性の結果はτ函数の量子化の処方箋が正しいことを保証していると考えることができる。 通常の微分版の場合の量子化はカッツ・ムーディ代数を用いて構成される。より複雑で興味深いのはq差分版のワイル群双有理作用の量子化である。q差分版の量子化は量子展開環(量子群)を用いて構成されるが、q=1を代入するだけで量子化される前のよく知られている表示に戻るような構成と量子群の関係は非自明である。 まずA型のRLL=LLRを満たす3×3の二重対角型L作用素を2つ用意してそれらの積を考え、その積の対角部分を二重化し、あるゲージ変換を施した結果が量子化されたq差分版パンルヴェIV方程式の量子化のLax表示で使われる。その構成は互いに素な正の整数の組(m,n)の場合に一般化される。q差分版パンルヴェIV方程式の場合は(m,n)=(3,2)の場合に対応している。一般の(m,n)の場合にはA型の2つのアフィン・ワイル群の直積の作用が得られる。対角部分の二重化をしなければいけない理由もゲージ変換の必然性もよくわからない。しかし、その処方箋によって欲しい公式が得られることはわかっている。理由や必然性がよくわからない事柄が残っているということはさらなる探求が必要なことを意味している。
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