研究課題/領域番号 |
23540004
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 浩司 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (30208483)
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キーワード | 可積分系 / 量子群 / パンルヴェ方程式 / 可解格子模型 / 離散化 |
研究概要 |
本研究は、フックス型接続方程式のモノドロミー保存変形の量子差分化(非可換化+離散化)を,量子離散タイヒミュラー空間上の系と捉え研究することを目的としている。とくに、パンルヴェVI型・ガルニエ系を量子差分化し,時間発展をデーン捻りの量子化として理解すること;量子差分パンルヴェVI型を生むD_5(1) 型ワイル群作用を幾何的な視点から理解すること;量子差分ガルニエ系の対称性や, τ関数の量子化についても,幾何的観点から追求すること、などであり、これらを通じて,量子群から構成される可解格子模型にリーマン面の幾何の視点を導入することが大きな目標である。 今年度の計画は、主として量子差分パンルヴェVI型方程式について、そのデーンひねりとしての理解を目指すものであった。タイヒミュラー空間と変形パラメータ方向のなす全空間の量子離散化の対称性として系を実現することは昨年度までに行なっているが、その極限としてKashaevらの量子差分リウビル系を含むことが確認できた。そこで、彼らの定式化を敷衍すると、底空間の分割に用いた三角形を回転することが問題であるが、年度内に解決には至らなかった。ただし、計算をやり直した結果、いくつかの細かい計算間違いが発見されたので、より整合的に目標に近づいたと思う。 今年度はガルニエ系の量子離散化を含むここまでの結果を論文として発表できた他、さらに、SL(2)よりランクが高い場合についても、大学院生の仙波洋介とともに計算をある程度進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フックス型接続方程式のモノドロミー保存変形の量子差分化(非可換化+離散化)を,量子離散タイヒミュラー空間上の系と捉えるという目的に向けて、パンルヴェVI型・ガルニエ系を量子差分化し,時間発展をデーン捻りの量子化として理解することなどを通じて、量子群から構成される可解格子模型にリーマン面の幾何の視点を導入することが目標であった。 これについて今年度は、パンルヴェ6型や、より一般にこれを含む Garnier 系について、その量子離散化のラックス形式あるいは量子離散ソリトン系の周期簡約としての構成について、論文を執筆し出版することができた。これまで懸案であったが、コンシステントな計算を改めて行い、第一歩を印せたと言えるものである。 また、高ランク版の場合についても目処をつけることができた。これは、非自励的な場合というべき Kashaev と Reshetikhin の量子離散戸田格子場模型を拡張する形で構成するものであり、かつ、彼らの構成を普遍 R 行列の立場からはっきり捉え直すこともできるものである。引き続き、方程式の具体形や、その対称性について理解を進めなくてはならないが、普遍 R 行列から欲しいラックス形式(ラックス行列)をいかにして得るかという、技術的で隘路であったところを乗り越えたように思われ、成果である。 ただし、モジュライの幾何学としての理解や、対称性の全容についての理解は十分でなく、最終年度に更に傾注する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
構成した系の幾何的な理解、および対称性の理解をさらに進める。このため、双曲幾何学や、点付リーマン面のモジュライ空間の幾何学あるいはその構成などに関して、古典的な知見を収集しなくてはならない。すなわち、文献を購入し、あるいは関連する研究会に出席するなどして、研究の進行を早める努力をする。 また、高ランクの場合の方程式を書き下し、さらにタウ関数について考察するべきである。これは、いわゆるソリトンの佐藤理論としてかつて研究されたことのうち、特に戸田場方程式の量子離散化について、それを非自励的な場合も込めて普遍的立場から構成しつつ、量子群からは十分に意味がはっきりしないタウ関数についても理解を進めるという課題である。幸い本研究科の黒木玄が、タウ関数の量子化のあるべき姿について、KP方程式系の場合に一つの理解を得ているので、議論を密にしつつ考察を進めたい。 以上について、結果を論文として発表するのはもちろんであるが、関連研究者と知見を交換することで、今後の研究の方向もより明確にできるであろう。前年度は、震災後の改修工事のため場所が制限され、近隣の研究者と意見交換するための機会を設けられなかった。幸い竣工したので、早期に研究会を開催するほか、海外の研究者とも議論を行う機会を模索したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の計画を効率的に推進したこと及び、震災後の改修工事等により予定していた研究会の日程・場所の確保が困難だったことから生じたものであり、今年度に延期して開催するための必要経費として平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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