研究課題/領域番号 |
23540020
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
権 寧魯 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (30302508)
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キーワード | セルバーグ型ディリクレ級数 / セルバーグ跡公式 / ヒルベルトモジュラー群 |
研究概要 |
今年度は、多変数のセルバーグ型ディリクレ級数とその数論的応用について研究を行った。現在まで、多変数のセルバーグ型ゼータ関数の定義はよくわかっていないが、Deitmar によって定義された、高階数の局所対称空間に対して定まる多変数のディリクレ級数がひとつの候補と考えられている。このディリクレ級数は階数が1のときは通常のセルバーグゼータ関数の対数微分と一致する。Deitmar はこの多変数のセルバーグ型ディリクレ級数をコンパクトな局所対称空間に対して定義し、その多変数複素関数としての性質やその解析的性質から対応する素測地線定理を証明した。証明の際にはセルバーグ跡公式の単純化にあたる“レフシェッツ型公式”がポイントであった。今回は実二次体のヒルベルトモジュラー群に対して、二変数のセルバーグ型ディリクレ級数を定義しその解析的性質を研究した。ヒルベルトモジュラー群は非ココンパクトなので、Deitmar のレフシェッツ型公式を適用出来ないことに注意する。代わりに、セルバーグ跡公式の幾何学的辺の総双曲共役類がこの二変数ディリクレ級数になるようなテスト関数を取るとき、双曲-楕円共役類の寄与がある一変数のセルバーグ型ディリクレ級数の無限族を用いて表示できることが証明できた。この方法を用いると、非コンパクトな場合でもこの二変数のセルバーグ型ディリクレ級数の解析接続を得られることがわかった。応用として、与えられた実二次体の整数環係数の二元二次形式で判別式が総正なものの、ふたつの基本単数の大きさで並べた、類数の和の漸近公式が得られる。同じ設定で、ひとつの基本単数に関する密度関数を掛けた類数和の漸近公式についても同様に得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主要な研究目的のひとつであった多変数のセルバーグ型ゼータ関数の研究に進展があった。具体的には、ヒルベルトモジュラー群に対する二変数のセルバーグ型ディリクレ級数の定義や、解析接続の方法や数論的な応用である判別式が総正な二次形式の類数和の漸近公式が得られたので、研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
階数2の実斜交群の特異点をもった球関数からポアンカレ級数を構成し、それを核とする積分作用素の「レゾルベント型跡公式」の研究を行う。通常このタイプの積分作用素は跡族にならないが、畳み込みを複数回行えば収束する。上記の「レゾルベント型跡公式」の研究を特定のKタイプを固定した上で行う。次に、シフト作用素で移り合うKタイプの組に対して、それぞれのKタイプを持つ球関数から構成されたレゾルベント型跡公式の両辺を比較し、それらの差分を計算する。このようにして得られるレゾルベント型跡公式とそれらの差分である細分化を用いて、セルバーグ型ゼータ関数の研究や関連する数論的応用を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内外の整数論、表現論、幾何学、特殊関数論等の研究者との研究打ち合わせや情報交換、議論行うために、研究費で国内旅費や外国旅費を賄う。また、日常の研究や成果の取りまとめ等の文房具や計算機関連経費等に研究費を使用する。研究を円滑に遂行するための謝金等にも使用する。また、研究で得られた結果を広く知らしめるために国内外の研究集会やシンポジウムで発表するために国内旅費や外国旅費を使用する。
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