研究課題/領域番号 |
23540022
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
津村 博文 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (20310419)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 解析数論・フランス |
研究概要 |
当該年度の最も成果があった研究は、連携研究者の松本氏、小森氏との次のような共同研究であった。既にこれまでの共同研究を通して、ルート系のゼータ関数の体系的な考察がなされたが、これはいわゆる半単純Lie代数のルート系に付随するゼータ関数を考察したものと見られる。当該年度に取り組んだ研究として、コンパクトな半単純Lie群の weight格子のゼータ関数を定義し、既知の結果を含んだ、より一般的な結果を得ることができた。実際、この一連の仕事のもとになっている Witten の仕事は、connected なコンパクト半単純Lie群の枠組みで行なわれている。このような研究の方向性は、1994年に Zagier によって提唱されたが、その後散発的に例えば、Gunnells-Sczech などの研究があるだけで、体系的な研究は皆無であった。その意味では、この研究分野に関する本研究を推進していくことは重要であると考えられる。この結果は現在、専門誌に登校中である。また多重ゼータ関数の関数等式に関して、松本氏、小森氏のほか、Weurzburg大学(ドイツ)の J. Steuding教授とも研究打ち合わせを行い、今後に向けての共同研究の準備を行った。他方、以前から松本氏とともに研究を続けている多重ゼータ値の和公式と呼ばれる概念について、二重Hurwitzゼータ関数というものに関する一般化に成功した。この結果は、研究論文として、専門誌である Moscow Journal of Combinatorics and Number Theory において出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、三年計画の初年度として、継続的に続けているルート系に付随するゼータ関数の研究は順調に進んでいる。既存の結果を含む一般化に成功したという点からみると、初年度の達成度は十分満足いくものである考えられる。具体的には、コンパクトな半単純Lie群の weight格子のゼータ関数を定義し、より一般的な結果を得ることができた点が重要であると考えられる。実際、この一連の仕事のもとになっている Witten の仕事は、connected なコンパクト半単純Lie群の枠組みで行なわれている。したがって、コンパクトな半単純Lie群の weight格子のゼータ関数を定義することは、本来の Witten の仕事を完全に含むことになるという意味で、非常に意味のあるものであると考えられる。またこの数年で取り組んでいる、双曲関数を含んだ Eisenstein型の級数の研究に関しても、順調に進んでおり、当該年度は既知の結果のレベル付Eisenstein型級数の研究まで進むことができた。これは最近、専門誌 Pacific Journal of Mathematics に accept されて、次年度に出版の予定である。この方向の研究に関しても、達成度は十分、あるいは予想以上のものであり、満足いくものであると考えられる。その他、St Etienne大学(フランス)の D. Essouabri教授との共同研究に関しては、当該年度は交流の機会がなく、次年度以降に継続的に取り組むこととした。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究に対応して、ルート系に付随する一般化ベルヌイ数が考察されて、その重要性がより深く認識できた。これは、本来のベルヌイ数のもつ豊かな数論的性質の伝播が期待され、これまで研究されてこなかった部分の情報が取り出せる期待も少なくない。既存の研究との対比を通じて、新たな情報の発見に努めていきたい。さらなる研究として期待されるのが、多重L関数と呼ばれるものの考察、およびその数論的な性質の研究である。とくに多重ゼータ値の類似としてのp進多重ゼータ値・L値は名古屋大学の古庄英和准教授などを中心に研究が進んでいるが、Kubota-Leopoldt のp進L関数の多重化にあたるp進多重L関数は、de Crisenoy などにより定義が試みられている程度で、現時点で数論的に決め手となるものは構成されていないのが現状である。それに関し、松本氏、小森氏および古庄氏との共同研究を行い、Kubota-Leopoldt のp進L関数の一般化とみられるp進多重L関数の研究を、次年度の重要な研究テーマとして取り組んでいく。その他に、研究代表者が取り組んでいる、双曲関数に付随する多重ディリクレ級数、アイゼンシュタイン級数の多重化などの研究も引き続き行なっていきたい。また現在も共同研究を続けている D. Essoubari教授(フランス、St Etienne大学)とは、フランスを訪問して、共同研究を継続して行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究結果に関しては、成果が出た段階で、国内でのこの分野の研究が活発な名古屋大学解析数論セミナー、九州大学代数学セミナー、近畿大学数論セミナー等への参加し、研究発表を行う。さらに関連結果の情報収集につとめ、最終的に日本数学会や京大数理研研究集会などで研究発表を行うことを目指す。そのための国内旅費として研究費を使用する。また2012年6月に韓国の浦項工科大学(POSTECH)で行われるL関数についての国際的ワークショップに、連携研究者の松本耕二氏とともに参加して、当該年度に得られた研究成果についての報告、並びに韓国の本研究分野の専門家との研究交流を行う予定である。そのための海外旅費として研究費を使用する。また、関連分野の知識・情報を入手するための文献、その整理および成果発表のために使用するOA関係機器・消耗品などの購入のための物品費を使用する。さらに、この分野の研究者を国内外から招へいして、専門的な知識の提供を受けるための謝金などに研究費を使用する。
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