研究課題/領域番号 |
23540028
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
鍬田 政人 中央大学, 経済学部, 教授 (00343640)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 数論幾何学 / K3曲面 / 楕円曲面 / 国際研究者交流 アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本研究の主な目的は, K3曲面の中でもとくに Kummer曲面について,その上に存在しうる楕円曲面の構造を分類し,そのMordell-Weil格子の構造をできるだけ具体的に記述することである.平成23年度は種数2の曲線の Jacobi多様体J(C)から得られる Kummer曲面Km(J(C))についての考察を中心に研究を進めた.Abhinav Kumar氏は,平成22年7月にベルリンで開かれた国際研究集会において,Km(J(C))上に存在する楕円曲面の構造のうち切断を少なくとも一つ持つものを分類し,これらすべてについて楕円パラメータを書き下すことに成功したと発表した.平成23年8月にトロント・フィールズ研究所で開催された研究集会 "Arithmetic and Geometry of K3 surfaces and Calabi-Yau threefolds" においてKumar氏と直接討論する機会を得たので,氏の結果を拡張してKm(J(C))上に存在する楕円曲面の構造のうち切断を持たないものを分類することの可能性を探った.このような楕円曲面の構造のうち,そのJacobianのMordell-Weil格子の階数が15になるものが存在することがわかっており,応用上重要なのであるが,Kumar氏はそのような楕円曲面のWeierstrass方程式を書き下すことに成功した.トロントの研究集会の後,MITのKumar氏を訪ね,そこでJacobianのMordell-Weil格子の生成元をもとめる方法について討論し,秋までに,15の1次独立な元をもとめる方針を確立した.この方法を応用することにより,長年の懸案であった,階数18のMordell-Weil格子をもつあるK3楕円曲面の生成元をもとめる見通しがたった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Kummer曲面Km(J(C))上の楕円曲面の構造のうち切断を持たないものの分類はKumar氏に完成されてしまったが,かえって新たに取り組むべき研究課題には事欠かない状況になった.当初の予定通り,平成23年夏にKumar氏と直接討論する機会を得たことにより,今までは手が届かないと思われた問題にも新たな見通しが立つこととなった.研究計画でも述べたようにKm(J(C))のようなKummer曲面はHumbertによる研究を通じて数論の興味ある問題とも関連している.今後も,Kumar氏をはじめ内外の研究者と緊密な連携をとり,なるべく当初の研究計画を遂行していきたい.
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今後の研究の推進方策 |
Jacobi多様体J(C)から得られる Kummer曲面Km(J(C))と並行して,二つの楕円曲面E1とE2が同種,あるいは同型である場合の直積型Kummer曲面 Km(E1×E2),さらにはPicard数が(標数0の)K3曲面での最大値20である,いわゆる「特異K3曲面」についての研究も進めたい.階数18のMordell-Weil格子をもつ直積型Kummer曲面より得られるK3楕円曲面も特異K3曲面の一つである.平成23年8月のトロントの研究集会で,J. Bertin氏とO. Lecacheux氏が特異K3曲面のうち特に興味ある楕円モジュラー曲面についての楕円曲面の構造の分類結果を発表した.これらの曲面は数論の他の方面とも深く関係しており,新たな研究の見通しが広がっている.特異K3曲面についてはほかにもM. Schuette氏やT. Harrache氏も関連した研究を行っており,こういった若手研究者を研究協力者として招聘し,討論を重ねて研究を進めたい.特異K3曲面については一つ一つの曲面がそれぞれとても個性的なものであるから,一般的な結果を追い求めるよりも,一つ一つの曲面についてより深く精密な結果を導くことをめざしたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
Kumar氏は平成24年夏に中国・上海の国際学会に出席予定だが,この機会を利用してKumar氏を日本に招聘し,これまでのそれぞれの研究を統合し発展させるための討論を行いたいので,そのための費用にこの研究費を充てたい.また,広島大学で平成24年春に学位を取得した内海和樹氏の仕事は本研究と密接に関連しているので,お互いの研究を統合し発展させるために気密な研究打ち合わせを行いたい.そのほか,平成25年春にイタリア・ミラノ大学のvan Geemen教授のグループを訪ねる計画も準備中である.また,ノート型パソコンの更新時期をむかえているので、移動時にも大規模な数式処理や数値実験を手軽に迅速に行えるよう,最新型のノート型パソコンを導入することを検討している.
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