本研究の主な目的は, K3曲面の中でもとくに Kummer曲面について、その上に存在しうる楕円曲面の構造を分類し,そのMordell-Weil格子の構造をできるだけ具体的に記述することである.平成25年度は,Picard数が標数0の体上定義されたK3曲面での最大値20である,いわゆる「特異K3曲面」についての研究を中心に進めた.このようなK3曲面は直積型のKummer曲面と密接な関係があることが知られている. 平成25年7月に研究協力者であるマサチューセッツ工科大学のAbhinav Kumar氏のもとを訪ね、直積型のKummer曲面のある種の被覆として得られる楕円曲面のMordell-Weil格子の構造について討論を重ねた.この結果,Mordell-Weil格子の定義体をあらかじめ特定することに成功し、生成元を具体的に書くという問題の解決に大きな進展をみることが出来た.これにより,かねてから懸案であった階数18のMordell-Weil格子をもつ特異K3楕円曲面のMordell-Weil格子の生成元を具体的に書き下すことに成功した. このほか,この問題から派生して,Mordell-Weil階数18の楕円曲面の構造をもつ特異K3曲面のうち,有理数体上定義されるものを構成するという問題にも取り組み,虚2次体の虚数乗法論を用いて多数の具体例を構成することに成功した. 平成26年3月,オランダ・フローニンゲン大学を訪問し,そこで行われたオランダ・都市間連携整数論セミナーにおいてそれまでの成果を発表し,フローニンゲン大学のJaap Top氏とさらなる研究討論を行った.
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