研究課題
本研究の目的は量子エルゴード性の概念を拡張することであった.量子エルゴード性とは,ラプラシアンの固有値の増大に伴って保型形式が等分布的になる現象である.私は2009年の先行研究で,ラプラシアンの固有値を増大させる代わりに,合同部分群のレベルを増大させることにより,同様の現象が証明されることを発見した.これを「量子エルゴード性のレベル・アスペクト」という.本研究では,量子エルゴード性の正標数類似への拡張を行った.正標数,すなわち有限体上の多項式を成分とするモジュラー群や合同部分群の場合,ラプラシアンの固有値は有限個しか存在しないため,従来の「固有値を増大させる」意味での量子エルゴード性は意味を持たないが,上の先行研究で得たレベル・アスペクトならば,正標数への拡張が可能であると思われた.本研究の結果,これまで有理整数環上(標数0の場合)でのみ証明されていた,モジュラー群の合同部分群に対するアイゼンシュタイン級数の量子エルゴード性のレベル・アスペクトを,有限体上の一変数多項式環上(標数正の場合)に拡張した.量子エルゴード性の証明の鍵は,保型L関数に対する非自明な評価を与えることである.本研究ではこの問題を,ラフォーグによって2002年に証明されたリーマン予想類似と,コンリーとゴーシュによって2006年に証明された定理「リーマン予想類似が成り立つゼータ関数は,セルバーグ類に属する限りにおいてリンデレーフ予想を満たす」を組合せることにより解決した.コンリーとゴーシュの定理を用いるに当たり,関数体上の保型L関数がセルバーグ類に属することを証明した.特に,関数等式の具体的な形を書き下し,その成立を証明することで,彼らの定理に帰着し,最終的な証明に至った.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) 図書 (2件)
Monatshefte fur Mathematik
巻: 30, November ページ: 1-14
10.1007/s00605-015-0841-3
Abh. Math. Semin. Univ. Hambg.
巻: 85 ページ: 59-71
10.1007/s12188-015-0104-3