研究概要 |
1.Dを有理数体上の定符号四元数環とする。荒川リフトとは、GL(2)とDの乗法群の積上の保型形式 (f, g) のテータリフトとして与えられるD上の2次ユニタリ群G上の保型形式F(f, g)である。Gに付随する対称空間は、複素構造を持たないが、Gは正則離散系列表現によく似た特性を持つ離散系列表現(四元数的離散系列表現)を持つ。連携研究者の成田宏秋氏(熊本大)は、荒川リフトに対応するアデール群G(A)の表現の無限成分が四元数的離散系列表現であることを発見した。多変数保型形式の整数論においては、正則保型形式の場合を除いて、保型形式の様々な不変量(フーリエ展開係数や周期など)およびそれらと保型L関数の関係については、あまり研究が進んでいない。その意味で、D上の2次ユニタリ群G上の保型形式の不変量を精密に研究することは意義が深い。平成22年度までに、研究代表者と成田氏は、(f, g) がHecke作用素の固有関数ならば、荒川リフトF(f, g)もHecke作用素の固有関数であること、また、F(f, g)のフーリエ展開係数が、(f, g) の周期として表されることを示した。 平成23年度に行われた研究代表者と成田氏の共同研究において、Waldspurgerの結果や研究代表者の結果を援用することにより、さらに次のことが示された。すなわち、F(f, g)のフーリエ展開係数のある種の平均の絶対値の平方は、(f, g) を展開項に対応する2次体の指標で捻った保型L関数の中心値として表される。2.研究協力者のB.Heim氏(ドイツ工科大(オマーン))とHilbert保型形式の場合の、Borcherds liftの積対称性を証明した。これは、平成22年度以前に行った共同研究で示されていた、階数2の直交群O(2, n+2)の場合のBorcherds liftの積対称性の類似である。
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