研究概要 |
この研究では,3次元正則局所環(または3変数多項式環)Rにおいて高さが2のイデアルIをとり,任意の正整数nに対してIの記号的n乗を計算する新たな方法を見出すと共に,Iの記号的リース代数(シンボリックリース環)のネータ性の判定法を改良することを目指している.このようなIの典型的な例としては,互いに素な正整数a, b, cに対して定まるspace monomial curveの定義イデアルP(a, b, c)が挙げられる.今年度は,記号的リース代数のネータ性の判定法を改良することを試みた.良く知られているHunekeの判定法では,Rが3次元正則局所環で極大イデアル(x, y, z)Rをもつ場合を扱っていて,Iの記号的k乗の元fと記号的l乗の元gに対して,剰余加群A/(x, f, g)Aの長さを調べなければならないのだが,それを実行することは困難な場合が多い.即ち,Hunekeの判定法を実際に適用できるIはかなり素性の良いものに限られるのである.そこでこの判定法の改良を目指したのであるが,その成果として次の様な結果が得られた. Iの記号的k乗の元fと記号的l乗の元gで,次の2条件をみたすものが存在することと,記号的リース代数が有限生成になることは同値である:(i) Iの任意の元は十分大きなベキ乗をとるとfとgが生成するAのイデアルに含まれる.(ii) Iの任意の素因子Pをとり,IをPで局所化したイデアルのリース環を考えると,その環の正次数の斉次元の十分大きなベキ乗は,fが定めるk次の元とgが定めるl次の元で生成されるイデアルに含まれる. この判定法を適用することにより,例えばP(9, 7, 31)の記号的リース代数はネータ環であることが分かるが,この例に対してHunekeの判定法を適用することは非常に困難である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,これまでに得られた結果を応用し,記号的リース代数が有限生成にならないようなP(a, b, c)の例を豊富に見つけたいと考えている.基礎体が正標数の場合にそのようなものを見つけられれば,重要な未解決問題に大きく貢献することができる.我々は「存在する」という答えが出ることを期待しているが,そうでない(即ち,正標数の体上では P(a, b, c)の記号的リース代数は常に有限生成である)という可能性も高い.いずれにせよ,与えられたイデアルの記号的ベキ乗を実際に計算する必要があり,その作業を実行する上で初年度の成果が役に立つであろうと期待している.勿論,予定通りに計画が進むとは限らないが,新たに解析することに成功した正標数の体上での P(a, b, c)の情報を利用して,標数が0の体上で記号的リース代数が有限生成にならない P(a, b, c)のクラスを,既に知られている例を含む形で大幅に広げることは十分に可能であろうと思う.
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