研究課題/領域番号 |
23540054
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
河田 成人 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50195103)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | Auslander-Reiten有向グラフ / 有限群の表現 |
研究概要 |
有限群の整数表現(完備離散付置環上の表現)において、 Auslander-Reiten 有向グラフの連結成分でトレース写像が分裂する表現加群を含むものについて研究を進めた。特に、次に述べる条件(1)または(2)のどちらか一方を満たすような表現加群に注目した。 (1) 素数巾の真部分群に制限した加群における直既約分解において、トレース写像が分裂するような直既約因子がただ一つだけ現れる。 (2) 正標数のモジュラー表現加群に簡約化した加群における直既約分解において、トレース写像が分裂するような直既約因子がただ一つだけ現れる。なお、これらの条件を満たす表現加群の例としては、自明な加群がある。条件(1)または(2)を満たす表現加群を含む連結成分のグラフとしての形状は、半平面状の網目格子かあるいはチューブと呼ばれる半無限の筒型であり、対象となっている表現加群は連結成分の端に位置していることが確かめられた。ところで、自明な表現加群の概分裂列とトレース写像が分裂する表現加群をテンソルすると、トレース写像が分裂する表現加群の概分裂列となることがAuslanderとCarlsonによって示されている。この事実を踏まえた上で、Auslander-Reiten有向グラフの連結成分で自明な表現加群を含むものとトレース写像が分裂する表現加群とのテンソル積について考察した。得られた結果として、上述の条件(1)または(2)を満たすような表現加群を、自明な表現加群を含む連結成分にテンソルすれば、この表現加群を含む連結成分が構成されることを確認した。なお、条件(1)と(2)は同値なものではないが、結果を証明するための論法は、どちらの条件の仮定のもとでも併行して利用できるものであった。これらの結果は2011年日本数学会秋季総合分科会一般講演において発表したが、論文としても纏めて出版する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限群の整数表現(完備離散付置環上の表現)の Auslander-Reiten 有向グラフの連結成分の形状の決定を大きな目標としている。実際、モジュラー表現において証明されたErdmann の定理が整数表現でも成立するのではないかと期待している。すなわち、有限群の整数表現において、無限表現型の整群環の Auslander-Reiten 有向グラフの連結成分の形状はA無限型と呼ばれる半平面的に広がる格子状かもしくは半無限に伸びる筒状であろうと予想されている。これまでには自明な表現加群や射影加群を含むような連結成分の形状は A無限型であることが本研究代表者によって確かめられている。ただ、整数表現は体上の表現に比べて取り扱いに注意すべきことが多く、一般論として連結成分の形状を判定することは困難なことと思われる。しかしながら最近になって、自明なソースを持つ加群やトレース写像が分裂する加群など重要な表現加群を含む連結成分の形状が、ある条件下のもとではあるが、A無限大型であることを示すことができた。さらに、連結成分の形状を決定できるまでには至っていないが、重要な表現加群を含む連結成分の形の候補となりうるタイプがかなり絞り込めてきたので、状況証拠は固められつつあるように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果は、トレース写像が分裂する表現加群を含むAuslander-Reiten 有向グラフの連結成分の形状を、かなり強い条件の下で決定したものであった。その条件は、実際にはもっと弱くすることが可能だと思われるので、これまで得られた結果とそのときに使われた手法を広く応用するべく考察を進める。また、有限群の整数表現の重要なものとして、擬既約加群と呼ばれる表現加群があり、その例としては既約加群やトレース写像が分裂する加群が挙げられる。この擬既約加群を含むような連結成分の形状についての研究を行う。なお、有限群の直既約な表現加群について研究する場合には、ヴァーテックスと呼ばれる部分群とソースと呼ばれる表現加群について調べることが重要となるが、ソースを含むAuslander-Reiten 有向グラフの連結成分の形状ともとの表現加群を含む連結成分との関連性にも着目して研究を進める。 ところで、群環は多元環のなかでも重要なクラスであり、群多元環の一般化として自己入射的多元環やFrobenius 環,概Frobenius 環などの広がりがある。群多元環と一般化された様々なクラスの環の類似性と相違性を追求することによって、多元環やアルティン環の研究の新たな展開を目指す。なお、環論全体の研究を推進するために、毎年「環論および表現論シンポジウム」が開催されている。このシンポジウムには多くの環論研究者が参加して最新の研究成果が発表され、活発に研究交流が行われており、本研究課題の遂行においても大変重要な位置を占める。このシンポジウムを継続的に成功させるべく運営面からも協力していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題を遂行するにあたり、最新の研究成果などの情報収集および研究者との議論や意見交換が必要となるが、そのために国内外の研究集会に出席し、研究協力者との研究打ち合わせをするための旅費として研究費を使用する。ところで、平成24年度には参加すべき研究集会が23年度以上に数多く開催されることが見込まれている。そのため、平成23年度の直接経費のうち20万円を24年度に繰り越して研究集会に参加するための旅費に当てることで、研究費をとても有効に活用できると期待できる。 また、最近の数学研究の進度は早く、多くの専門書が出版されている。研究を進めるためには、最新の研究結果が記載された図書や研究集会の報告集が必須となるので、群論・環論・表現論を主題とした代数学の専門書や関連する分野の数学専門書を購入するために研究費を使用する。 さらに、群多元環は環論のなかでも重要な位置を占めており、他のクラスの様々な環と互いに影響を及ぼしあっている。有限群の表現論を環論全体の枠組みの中で研究を展開していくうえで、毎年継続的に開催されている「環論および表現論シンポジウム」が大変大きな役割を果たしている。このシンポジウムでは環論および表現論の分野の広範なテーマにおける重要な研究成果が数多く発表され、多数の研究者が一堂に会して議論することができる絶好の機会である。このシンポジウムを支援したく、そのためにも講演者の旅費の補助やシンポジウム報告集の出版費などとして研究費を使用したい。
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