平成26年度は,前年度に引き続き,Booleanグレブナ基底を用いた連立Bool方程式の解法,特に,数独型パズルへの応用について研究を進めた.また,点付き代数曲線で,その点でのWeierstrass 空隙値列が指定されたもの全体の作るモジュライ空間を,単項曲線の重み負の変形空間で記述する理論(いわゆるPinkham理論)の正標数への拡張の研究を行った. まず,Booleanグレブナ基底を用いた井上アルゴリズムの研究を進め,連立Bool方程式の難しさを判定する井上不変量というものを定義した.連立Bool方程式を一般化された井上アルゴリズムで解く場合に,その手順は樹形図で表されるのであるが,可能なすべての樹形図のうち,最少の樹形図のデータとして井上不変量は定義される.応用として,数独型パズルの場合の井上不変量を計算し,4独の場合はすべてのパズルの井上不変量は自明(最少)のものしかなく,対角型5独の場合は,2つの特殊なパズルの場合を除いて,すべてのパズルの井上不変量は自明であることを示した.さらに,対角型6独の場合は,大きい井上不変量をもつパズルが多数存在することも明らかにした.9×9の数独パズルの場合は,井上不変量が数独の難易度を図る適切な指標であることを実験データにより確認した.以上の結果は,3本の論文にまとめて発表済みである. 次に,Pinkham の理論は,与えられたWeierstrass空隙値列をもつ点付き代数曲線のモジュライ空間を計算する強力な理論であるが,残念なことに標数0の場合にしか成立しない.そこで,まず正標数の場合の典型的な反例を構成し,さらに正標数の場合にPinkhamの定理が成立するための大変使いやすい十分条件を発見した.この結果は現在論文執筆中である.
|