研究課題/領域番号 |
23540073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関口 英子 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (50281134)
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キーワード | ペンローズ変換 / ユニタリ表現 / 有界対称領域 / 表現の分岐則 / 複素多様体 / リー群 / グラスマン多様体 / 積分幾何 |
研究概要 |
本研究は研究代表者が従前行ってきた「ペンローズ変換による無限次元表現の研究」に立脚し,不定値グラスマン多様体上に定義される無限次元表現を積分幾何の立場から明らかにすることを目指している。Helgason 教授 85 歳を記念したアメリカ数学会の分科会において招待講演を行い,その講演に基づいて執筆した第一論文(Contemporary Mathematics, アメリカ数学会に掲載予定)では,表現の特異性が twistor 変換においてどのように関わるかについての抽象論を展開し,不定値グラスマン多様体を用いて具体例を与えた。一方,Hua-Kostant-Schmid-Kobayashi による分岐則に関する研究を行った。平成 25 年度に出版される予定の第二論文(アクセプト済み)にまとめた。Hua-Kostant-Schmid-Kobayashi の分岐則は半単純対称対に関するスカラー型の正則離散系列表現の既約分解に関する公式である(以下ではこれを HKSK 公式と略す)。平成 24 年度はHKSK 公式をさらに一般の特異なユニタリ表現に拡張した。この特異なユニタリ表現は不定値グラスマン多様体上の正則直線束の Dolbeault コホモロジー群に実現される表現である。そのペンローズ変換による分岐則は行列式型の連立微分方程式系をみたす。その微分方程式を活用することによって HKSK 公式を拡張した。この論文で得られた分岐則は無重複表現であるが,その無重複性に関しては小林俊行氏による複素多様体の可視的作用の一般理論“スカラー型最高ウエイト表現を半単純対称対に制限すると無重複である”の特殊な場合と解釈することができる。本研究はペンローズ変換の手法を新たに取り込んで抽象的な無重複性定理を精密化して無重複の分岐則の明示公式を与えた定理という意味をもつ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究者が従前行ってきた「ペンローズ変換による無限次元表現の研究」に立脚し,その幾何的な解明を目指すものである。具体的には不変式論の有界対称領域への応用として,非コンパクトな複素多様体上の Dolbeault コホモロジーに対して,パラメータをもつサイクル上の積分として構成したペンローズ変換の像がみたす偏微分方程式(青本-Gelfand の超幾何微分方程式系の一般化)の構造を調べ,さらに非コンパクトな部分群に関して,表現がどのように分解するかについてペンローズ変換の像がみたす微分方程式の制限を考察することにより,具体的な分岐則を構成することができた。 このように当初の研究計画がおおむね順調に進んでいるので,引き続き,下記の推進方策にそって研究を遂行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究をふまえて,今後の研究目標として,ツイスター理論の表現論への応用を考えている。特に特異なパラメータに焦点をあて,Zuckerman 導来関手加群に対応する Dolbeault コホモロジーに対する Penrose 変換を考える。この Penrose 変換が単射でない例,特に最初に与えた Dolbeault コホモロジーと同じ次元をもつような大きな kernel をもつ例を考える。また Dolbeault コホモロジー上の同型な表現を与える二つの相異なる複素多様体の例についてツイスター変換を利用したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は表現論,特に分岐則の研究の第一人者である小林俊行教授の生誕 50 年をお祝いする研究集会がフランス(Reims 大学)で開催され,世界的に有名な表現論の研究者が多数集うことになっている。これに参加し,表現論の様々な研究成果の最新情報を収集しようと考えている。またアジア国際数学者会議(韓国)の招待講演で今までの研究の成果を発表する予定である。さらに,関連する書籍を購入し,関連度の高い国内の研究集会に参加する予定である。
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