これまでの研究に引き続き,偏極代数多様体の幾何学的不変式論の意味における安定性と定スカラー曲率 Kaehler 計量の存在とが同値になるという予想いわゆる「偏極代数多様体に対する小林・Hitchin 対応」を中心に研究した. 特に本年度は,昨年度に引き続き Nill・Paffenholz による非対称なトーリッ Einstein・Fano 多様体の例の一般化について考察した.Nill・Paffenholz の例は7次元のものと8次元のものがあり,昨年度までの研究成果で7次元の例を一般化(高次元化)することに成功していたのであるが,今年度は8次元の例の方も一般化することに成功した.この結果,次元が7以上であるような非対称なトーリック Einstein・Fano 多様体の例で,低い次元のトーリック多様体の直積となっていないようなものを多数構成することができた. また,Nill・Paffenholz による7次元の非対称なトーリック Einstein・Fano 多様体の例は,漸近的 Chow 半安定でないことが小野・佐野・四ッ谷により示されているので,我々の構成した例達もそのような性質を持つことが期待される.この問題に関して,ある種の単純なタイプの一般化の場合には,漸近的 Chow 半安定でないことが示せた.特に,7以上の任意の次元に対して,非対称なトーリック Einstein・Fano 多様体で漸近的 Chow 半安定でないようなもので,低い次元のトーリック多様体の直積となっていないようなものを構成することができた.
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