研究課題/領域番号 |
23540083
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
糸 健太郎 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (00324400)
|
キーワード | 双曲幾何 / クライン群 |
研究概要 |
クライン群(3次元双曲空間の等長変換群の離散部分群)の変形空間について研究している.クライン群の変形空間は商多様体の理想境界に現れるリーマン面の変形空間と対応しており,私はこの対応の連続性・不連続性について研究している.その中でも,Kerckhof fとThurstonによって見出された「タイヒミュラー空間のベアスコンパクト化の基点に関する不連続性」の原理を明らかにすることを目標としている. 今年度も前年度に引き続き,1点穴あきトーラス群の空間のリニア・スライスについて研究した.とりわけ,トレースの値が2に近いときのリニア・ スライスが,ちょうど2の場合のリニア・スライス(マスキット・スライス)にどのように近づく/近づかないかを調べた.Bromberg は「穴あきトーラス群空間は局所連結でない」という結果を得ているが,彼がそこで導入した座標とトレース座標の関係を明らかにする形で,上述の結果を論文にまとめ投稿した.また,局所連結でないリニア・スライスが存在することも明らかにした. 一方で,2点穴あきトーラス群の空間の研究も行った.1点穴あきトーラス群空間は次元が低くKerchkoff-Thurston現象は観察されないのであるが,2点穴あきトーラス群空間の場合にはこの現象が観察されると期待される.手始めに2点穴あきトーラス群空間のマスキット・スライスの境界挙動について研究した. さらに,1つ次元の高い4次元クライン群の研究もおこなった.以上の研究全体を通じて,クライン群の極限集合や変形空間のコンピュータグラフィックスを描かせることが重要であり,その方面にも努力した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1点穴あきトーラス群の空間のリニア・スライスに関する論文を完成させ投稿したことは大きな進展である.技術的に難しい部分があり,執筆に予想以上に時間を費やす必要があった. 一方で,2点穴あきトーラス群をはじめ,一般のクライン群の変形空間におけるKerckhoff-Thurston現象についても本格的に研究を開始したが,まだ本質的な進展が得られないので,研究の進展は当初の計画よりはやや遅れている.
|
今後の研究の推進方策 |
Kerckhoff-Thurston現象の解明を軸に,とりわけ2点穴あきトーラス群に関する研究を推し進める.そのために,一般曲面に関する measured lamination, ending lamination 等に関する知識を増やし,Bers境界とThurston境界の違いを探求することも1つの目的である.また,本研究において,クライン群の極限集合や変形空間のコンピュータ・グラフィックスを得ることが本質的に重要であるので,そのための努力をしたい.
|
次年度の研究費の使用計画 |
2113年6月に東工大において,国際集会"Analysis and Geometry of Riemann Surfaces and Related Topics"を藤川(千葉大),小櫃(鹿児島大),田辺(東工大)と共同で開催する予定である.昨年度の繰越金は,この集会にDragomir Saric (CUNY)を招聘するために用いたい. その他の研究費の使用目的は,基本的に昨年度と同様で,国内外の研究者との研究交流を行う旅費が主な支出となる.
|