研究課題/領域番号 |
23540095
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
長友 康行 明治大学, 理工学部, 教授 (10266075)
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キーワード | ベクトル束 / ゲージ理論 / 調和写像 / 部分多様体 / 表現論 |
研究概要 |
本年度は、リーマン多様体からコンパクト対称空間への調和写像に関する理論の研究と、複素グラスマン多様体の複素部分多様体に関する研究とを行った。 前者の研究も二つに分かれる。まずは球面から球面への調和写像のモジュライ空間を記述するdo Carmo-Wallach理論の一般化である。これは以前に得られた結果を下にしているが、条件を整理し、do Carmo-Wallachとは異なる条件をゲージ理論的側面から導いた結果である。ここで得られた条件は、球面から球面への調和写像の場合にはdo Carmo-Wallachの条件と同値なものであり、計量に課された条件を接続に関する同値な条件へ置き換えた興味深いものとなっている。 次にこの一般化されたdo Carmo-Wallach理論を用いて、複素射影直線から複素2次超曲面への調和写像の分類を試みた。すでに複素射影直線から複素射影空間への調和写像が標準的な写像と同値であることはdo Carmo-Wallach理論の一般化を用いて示せたが、複素2次超曲面への調和写像の場合には、問題を表現論に翻訳したときに、複素表現ではなく実表現を考察しなければならないことが大きな違いである。 最後に複素グラスマン多様体の複素部分多様体の研究であるが、複素グラスマン多様体でも最も簡単な場合、すなわち複素射影空間内の複素部分多様体の研究に関してはすでに多くの結果が知られている。この理由を考察した結果、複素射影空間への写像に対して決定されるあるベクトル束の階数が1であることが主たる理由であることがわかったので、複素グラスマン多様体への写像に対して決定されるベクトル束に、ある条件を課すことにより、A.Rosの結果を一般化することに成功した。このベクトル束に課される条件もゲージ理論内でよく知られたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
調和写像のモジュライ空間を記述するdo Carmo-Wallach理論の一般化における、条件の整理はかなり評価できると思われる。球面の場合には普遍商束の自明化を与える切断が、また位置ベクトルともみなせる点が考察を著しく簡単にしていたが、重要なのは普遍商束に与えられた接続であるという視点を明確にできたからである。しかもこの条件は球面の普遍商束の階数が1であることと合わせれば、do Carmo-Wallacの条件と同値なものであり、球面の場合であっても接続が陰に重要な役割を果たしていることを確認できたからである。本研究課題においては最重要な結果のひとつであると言える。 また、複素グラスマン多様体の複素部分多様体の研究においても、常にYang-Mills接続を念頭に置いている。この部分多様体とゲージ理論との関連は今後も発展させるべき課題であると思われるので、ゲージ理論的視点からRosの結果を一般化できたことは評価に値すると思われる。リーマン多様体からグラスマン多様体への写像に付随するベクトル束の接続、曲率に条件を課すということは、接束以外にも、考察すべきベクトル束が存在することを強調できた点で本研究の目的の一つを達成できたように思っている。 最後に調和写像のモジュライ空間を記述するということは、一般化されたdo Carmo-Wallach理論の威力を示すためにも、そして本研究の進展のためにも重要であるので、今後も発展させていきたいと思っている。 ゲージ理論的な観点が、写像や部分多様体の研究にとって、新しく重要であることを様々な立場から、強調しうる結果が出ている現状を鑑みるに、本研究課題の目的をかなりの程度まで達成できていると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、一般化されたdo Carmo-Wallach理論とコンパクト対称空間からグラスマン多様体への同変調和写像の法ベクトル束のホロノミー分解を用いて、複素射影直線から複素射影空間への場合と複素射影直線から複素2次曲面への場合以外にも、調和写像のモジュライ空間を記述することを実行したい。もちろん、後者の複素射影直線から複素2次曲面への調和写像の場合にはすべてが記述できた訳ではないので、これを完全に解明することがスタートとなる。すでにこの場合には、複素射影直線から複素射影空間への調和写像の場合とは異なる現象が観察されたので、このモジュライ空間を解明することは、今後の研究にとって非常に重要であると考えられる。 また、複素グラスマン多様体内の複素部分多様体に関する研究を進めていくつもりである。グラスマン多様体への写像に付随するベクトル束の接続、曲率に課すべき条件の候補はすでに存在しているので、この条件からどのような結果を導くことができるかを考察する予定である。このような視点は今までにはなかったと思われるので、何もかもが手探りではあるが、成果も出たので、着実に歩を進めていきたい。 また、ベクトル束の切断に関連して得られるコンパクト対称空間内の等径超曲面に関する部分多様体の不変量を、ベクトル束の接続、曲率に関連した不変量を用いて計算することも引き続き行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
B-Aが、わずか87円という状況なので具体的な計画というわけではないが、今後とも無駄なく、効率的に研究費を使用していく予定である。
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