研究課題/領域番号 |
23540104
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
中山 裕道 青山学院大学, 理工学部, 教授 (30227970)
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キーワード | 位相幾何 / 力学系 / 幾何学 |
研究概要 |
幾何学的力学系理論では,微分方程式や同相写像の軌道を幾何学的に研究する.コンパクト多様体上の力学系では,軌道がどこかに巻き付く.この最小単位としての極小集合(不変なコンパクト集合のうち包括関係に関して極小な集合)の研究は,幾何学的力学系理論の本質をとらえるものとなる.本研究では,曲面の同相写像における連結極小集合という基本的な対象に関して,その分類を試みている. 平成25年度は,前年度に引き続き,多重ワルシャワ円が曲面の微分同相写像の極小集合になりうるかを研究した.ワルシャワ円は弧状連結でない連結集合として位相空間論の講義でおなじみな対象である.1本の線分に sin 1/x のグラフが近づく形をしている.この線分を特異ファイバーと呼ぶ.円周に無限本の特異ファイバーを稠密に挿入してできる集合を多重ワルシャワ円という.これが曲面の微分同相写像の極小集合となるかを研究している.歴史的には,1950年代に,Gottschalk-Hedlund が多重ワルシャワ円の上だけに極小同相写像を構成した.その後40年ぐらいかり,1991年にWalkerが曲面の同相写像で,多重ワルシャワ円を極小集合にもつ同相写像を構成している.そこで,微分同相写像の極小集合となりうるかを研究している.微分方程式から得られる力学系は,必然的に微分ができる.この点で,微分同相写像の極小写像となりうるかを調べることは重要な問題だと考えている.既に,同相写像と同じ方法では構成できないことを証明してある.そこで,多重ワルシャワ円を円周の逆極限により表現することを試み成功した.未だに問題解決には至っていないが,逆極限は,複雑な力学系を構成することに適しているため,大きな進展があったと確信している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,その主要なステップとして,多重ワルシャワ円が曲面の微分同相写像の極小集合になりうるかを調べている.前年度までに,弧状連結でない連結極小集合をもつ曲面の微分同相写像を構成した.しかし,この集合が多重ワルシャワ円と同相になるかがどうしても証明できなかった.そこで,多重ワルシャワ円を sin 1/x のグラフを使った表現ではなく,力学系にとって使いやすい対象に表現する方向に切り替えた. 整数全体の集合と円との直積をとり,これにうまく射影を取っていくと,もともとのワルシャワ円と同相な逆極限が構成できる.これを円周の逆極限という.そこで,無限個の特異ファイバーを持つ多重ワルシャワ円についても,円周の逆極限による表現を試み,成功した. 円周の逆極限を用いた表現は,複雑な力学系を持つことに適している.これまでで最も有名な応用が Handel によるもので,擬円を極小集合に持つ曲面の微分同相写像の構成に成功している.擬円とは,至る所で折れ曲がって埋め込まれている集合で,一般位相空間論で盛んに研究された非常に複雑な集合である.Handelは,擬円を円周の逆極限で表現し,これを帰納的に曲面に埋め込むことで,微分同相写像を構成している. 従って,多重ワルシャワ円を円周の逆極限として表現できるということは,Handelのシナリオでは,半分終了したことになる.依然として,円周の逆極限を,曲面の微分同相写像として埋め込めるかについては未定だが,かなりの確率で構成できると信じている.近くの研究者に聞いてみても,たぶんできるであろうとの助言をもらっている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,多重ワルシャワ円を,幾何学的力学系理論にとって扱い安い対象としてとらえることに挑戦し,多重ワルシャワ円が,円の逆極限になっていることを初めて証明した.逆極限は複雑な力学系を構成することに適しており,過去には,Handelが擬円と呼ばれる非常に複雑な集合を極小集合に持つ微分同相写像の構成に成功している.残る部分は,円周の逆極限を曲面に埋め込むことで,曲面の微分同相写像で多重ワルシャワ円を極小集合に持つものを構成することである. 関数 sin 1/x のグラフには,ある種の微分構造を持っていることを証明してある.実際,特異ファイバーを平行に並べると,微分同相写像に埋め込むことができない.これが原因で,多重ワルシャワ円を微分同相写像の極小集合にすることが困難になっている.そこで,特異ファイバーを折り曲げて折り曲げて,微分同相写像に埋め込むことで,曲面の微分同相写像を構成するのが,今後の方針である. 問題となるのは,埋め込むこと自体はHandelと同様にできるが,この段階で,sin 1/xが伸び縮みしていて,できたものがオリジナルなものから崩れる可能性がある点である.ここが難しい.ここを超えることが今後の研究の進展のキーになる.しかし,多重ワルシャワ円には,ある種の対称性もあるため,目標の「多重ワルシャワ円を極小集合に持つ曲面の微分同相写像」を構成できる可能が高いと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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